ロストプラネット 1 北米発売時の稲船敬二氏インタビュー

  • こちらもだいぶ古いものですが、旧ブログより転載します。
  • 2006 年の年末〜2007 年年始のお話です。

以下、転載


翻訳・要約担当者からのまえがき

  • 例のごとく誤訳がある可能性と、コンテンツはすべてソース英語サイトさまのものであることをここに明記します。
  • 元の英語インタビューはこちらです:Brian Dunn / Post details: Exclusive Interview - Keiji Inafune
  • 内容は英語本文中の内容を LYE が独自に翻訳したものであり、インタビューの日本語内容をそのまま文書化したものではありません。
  • CAPCOM 公式で日本語が公開されるらしいので、それが公開されたらこちらの翻訳はまあ消せばいいかなと思っています (見た限り存在しないようなので転載しました)


Brian Dunn / Post details: Exclusive Interview - Keiji Inafune

[ブライアン]: 2007 年に向けて新年の決意みたいなものはありますか?
[稲船]: ええ、カプコン全体としてのものがあります。特定のタイトルの開発にかかわることよりも開発全体の管理を担当することが多いので、今年の目標は基本的にうちの優秀な開発スタッフの就労条件を向上することですね。
--中略--
[稲船]: 以前は何よりもゲーマーを最優先していましたが、近頃は変わってきましたね。市場が変わってきました。うちで実際にゲームを製作している開発チームは本当にハードに働いています。ただ、才能のあるメンバーが尋常ではない時間を仕事に費やしているこの環境をなんとかしないことには、彼らが仕事にやりがいを見出せないのではないかと思うのです。この点については変化が必要だと思いますね。そしていまや僕はそういった変化を起こす側にいる。実現するためにはなんでもするつもりです。それが来る日も来る日もゲームを作り続けている開発チームにとって良いことであるのはもちろんですが、環境が向上すればするほど、クオリティオブライフ (日常生活における精神的・身体的・社会的・文化的・知的な満足度、以後 QOL) のバランスも取れて、最終的には出来上がるゲームの質も高くなると思います。製品の質が高くなるのですから、エンドユーザーにとっても有益でしょう。これが今年の目標ですね。
[ブライアン]: 去年一番面白かった映画は何ですか?
[稲船]: うーん難しいなあ。最近は映画館に行くことすらできないですから・・・。
[ブライアン]: では、自宅で見た DVD を含めたらどうでしょう?
[稲船]: 映画じゃあないですが去年は溜まっていた 24 を少し見ることができました。見たのはシーズン 3 と 4 かな。あんまり映画は見られなかったですが、はまったのはスパイク・リー監督の『インサイド・マン』ですね。スパイク・リー作品としては見やすかったと思いますし、彼のほかの作品に比べると、いわば主流派でしたよね。特に最後のどんでん返しがいいですね。見てる側がああっ! てなって、映画の題名が何故『インサイド・マン』なのかを理解するあの瞬間が良かった。
[ブライアン]: なるほど。それじゃあ次の質問へ。一番好きなアメリカの食べ物は何ですか? アメリカに来るたびに食べるものや、日本では食べられないものや味が異なるものなどはありますか?
[稲船]: うーん、こっちにはかなり頻繁に来るので大抵は中華料理か日本食ばかり食べてしまいますね。本当のことを言えば、“アメリカ的” アメリカ料理はあまり好きではないです。アメリカの食事は肉が材料のひとつじゃなくて、こう、どかーんとしたステーキとか肉中心みたいなところがあるじゃないですか。ただ、アメリカのファーストフードは好きです。特にハンバーガー。ただ、食べるときは日本にはない店で食べるようにしています。日本にはもちろんマクドナルドはありますし、少数ですが Carl’s Jr. レストランもあります。なのでアメリカに来たときにはバーガーキング (訳注: B キングは今年再上陸予定!) とか In-N-Out とか、日本にはない店に行きますね。
[ブライアン]: ということは、肉大好きで肉をたくさん食べるわけではないけれど、ハンバーガーには弱いと。
[稲船]: そうです。それでも、アメリカのハンバーガーは大抵でかいですよね、もうほとんど肉みたい。Six-Dollar バーガー (訳注: Carl’s Jr. の鬼でかいバーガー) とか。あんなに大きなバーガーいる人いるの (笑) ?
[ブライアン]: 分かります (笑)。さてさて、歳を取りすぎたり死んだりするまでにやっておきたいこと、成し遂げたいことなんかはありますか? エベレスト登頂とか、小説を書くとか?
[稲船]: ああ、あります。これまでにも出張でかなり色々な国を巡りましたが、エジプトにはまだ行ったことがなくて、いずれ行ってみたいと思っています。ただあの地域は現在不安定ですしね・・・。でも死ぬ前には一度は行って、ピラミッドを近くで見てみたいですね。
[ブライアン]: 少し過去のことについて伺っても良いでしょうか。CAPCOM に入社されたのはいつですか? また、当時他にゲーム開発以外にやりたかったことはありましたか? もし CAPCOM に入社していなかったら、全然違う分野で活躍していたと思いますか? それともやはりゲーム業界だと思います?
[稲船]: CAPCOM に入社したのは 1987 年です。その当時は CAPCOM で働きたくなくて。本当はテレビゲームを作りたかったので (訳注:私が調べた限りでは CAPCOM は 1987 年当時はアーケード中心でファミコンゲームは作っていない)。基本的に、絵が描きたかったんですけどね。入社当時はグラフィックデザイナーだったんですよ。何にでもなれるとしたら有名な漫画家になりたかったんです。物語を紡いでそれを絵にして他の人と共有したかった。でも漫画家として成功するのは本当に大変なんですよね。でも今になってキャリアを振り返ってみると、テレビゲームでやれたこと、これまでに作ってきたものについてものすごく満足しています。もし漫画家として活動していたとしてもこんなに満足できないと思う。CAPCOM でゲーム製作する環境に落ち着いてよかったと思います。
[ブライアン]: もし CAPCOM に就職していなかったら、テレビゲーム界のゴッドファーザー稲船じゃなくて人気漫画家稲船敬二だったかもしれないわけですね。
[稲船]: ううん、何かの拍子にそうなっていた可能性もあったかもしれないですよね (笑)。
[ブライアン]: 漫画で伝えたかった物語というのはどういった種類のものだったのですか? 日本の漫画にはたくさんのジャンルがあると思うのですが。アクション、スポーツ、恋愛、ドラマ・・・、いろいろありますよね。
[稲船]: 全部やりたかったです。SF、コメディ、子供向けのものからテレビゲームでできそうなことまで。自分をひとつのジャンルやスタイルに縛ることは好きじゃないので。いろんなものに自由に触発されて、それを紙に描きたかった。まあ、これまでにテレビゲームでもずいぶんと自由にやらせてもらえましたしね。
[ブライアン]: 子供のころから絵は趣味としてずっと描いていたのですか? それとも専門的な学校で勉強した?
[稲船]: 生まれたときからとかそういうのではないけど、思い出せる一番幼いころの記憶、たぶん 2、3 歳かな、ではいっつも紙と鉛筆を持っていましたね。いつも絵を描いていました。たぶん母が、家中散らかしたりいたずらしないように絵を描かせていたのではないでしょうか。すごく小さなころから周りに紙と鉛筆があったので、いつも絵を描いていたんです。それで、高校を卒業してから芸術関係の専門学校に入って、グラフィックデザインについて学びました。でもそれとは別に、よく漫画の絵を描いたり写したりして遊んでいました。その頃のことを考えると、今はなんとなく絵を描いたりする時間がなくてちょっと寂しいですね。
[ブライアン]: なるほど。さて、話題は変わりますが、Lost Planet がアメリカで発売となります。すでに予約が殺到していて、売り上げはものすごいことになりそうですが。開発当時を思い返してみて、Lost Planet が CAPCOM にとって非常に重要なタイトルになると確信したのは、あるいは手ごたえを感じたのは開発段階のどのあたりでしたか?
[稲船]: 初めて Lost Planet のアイデアが出たのは 3〜4 年前でした。その当時から、心の奥のほうで Lost Planet はかなり大きくなるのではないかと思っていました。でもクリエイターがゲーム製作を開始するには、まず「これから作るゲームは良いゲームである」という確信が必要です。確信が得られなければ、プロジェクトは始まりません。なのでその当時から、潜在的な可能性は分かっていたんですね。このゲームには日本とアメリカのゲーマーの両方にとって魅力的に映る要素があると分かっていたんです。そしてこのゲームには深いバックストーリーとすごくクールが設定もあった。この初期段階のコンセプトからゲームを作れるということに興奮しました。一時期僕は Halo にすごくはまっていたので、あのレベルのゲームが作りたかった。個人的には、僕たちは目標にかなり近づけたのではないかと思っています。このゲームのアイデアが生まれて会社の支持を得た時点で、最終的に優れた品質のゲームになるという確信が必要だったわけですが、私には自信がありました。
[ブライアン]: 私がオンラインで見かけた日本人プレイヤーの数を見る限り、Lost Planet は日本で非常に良い評価を得ているように見えます。そしてもちろん、アメリカとヨーロッパでも大ヒットとなるでしょう。こんなに幅広いゲーマーを魅了する要素とは何なのでしょうか? 通常、日本とアメリカのどちらかで人気があっても両方ではヒットしないものですが。
[稲船]: 思うんですが、正統派シューター系ゲームは欧米側で高い人気がありますが、日本のゲーマーは一味足りないと感じると思うんです。ただ走り回って悪者を撃ち殺すとかそういうのがつまらないというわけですね。一方で Lost Planet では、アンカーとかグラッピングフックといったアクションゲームの要素を多く取り入れました。あと、最近のシューター系ゲームでは、こそこそ動いたり、隠れたり、隠れて銃撃したりしている時間がかなりの割合を占めますよね。Lost Planet は現在の流行から少し昔に戻って、いつも走り回っていて、どんどん前進してどんどん敵を撃たなければならないようなゲームにしました。これが、日本のゲーマーには日本的で魅力的な要素として機能するのではないかと思います。もちろん欧米のゲーマーにとっても同じように機能するのではないかと。なのでゲームを入手したユーザーが「シューターだし楽しめるかな?」と心配することがあっても、こういったアクション要素と伝統的な日本のゲームスタイルのおかげでハマりやすいのではないかと。日本のゲーマーにウケるように作ったわけではないのですが、私たちは日本人なのでゲームは必然的にそっちの方向に進化を遂げることになりました。結果的には、私はうれしく思っています。日本人プレイヤーがこのゲームを好いてくれて、シューターゲームを好いてくれる結果になったので。そしてもし Lost Planet がきっかけとなって、日本のゲーマーが Halo や Gears of War などの優れたゲームを楽しむようになってくれたら、それ以上にうれしいことはありません。
[ブライアン]: 最近のテレビゲーム業界では、企業が安全策を取る傾向が強いですよね (訳コメ:アニメ業界と一緒ですね)、続きものとかライセンスタイトルとか。一方、リスクの高いタイトルや新規タイトルが避けられる。でも CAPCOMDead Rising と Lost Planet、さらに別のプラットフォームでは逆転裁判シリーズなどを発表し、リスクを許容した上で新しいことに挑戦する姿勢を示しました。Lost Planet は、初期段階では不安視する声もあったのではないかと思うのですが、今や CAPCOM ジャパンの上層部もゴーサインを出してよかったと思っているのではないでしょうか。Lost Planet のように完全新規でリスクの高いタイトルでは、経営陣から承認を得るのは大変でしたか?
[稲船]: ええ、Dead Rising と Lost Planet の両方とも、上層部は当初開発にかなり反対していました。実際、暫くの間プロジェクトは実質的にほとんどキャンセルされていました。一方で私は、こういったタイトルこそが CAPCOM に必要なもので、きちんと作り切る必要があると考えていたので、 それから数ヶ月に渡り「これらのゲームこそが成功への鍵であり、収益を上げるのだ」と意志決定権を持つ人たちを説得し続けました。この 2 タイトルについては、もうあきらめようと思ったこともありました。でも今は、経営陣の承認がおりるまで粘って本当によかったと思っています。しかし経営者の視点から見れば、360 のゲームで日本市場ですから。それは渋るでしょうね。しかも次世代機ですからどうしたって開発費を安くあげることはできません。会社にとって非常に大きな投資なわけです。だから経営陣が Lost Planet と Dead Rising の開発にゴーサインが出せなかったのも当然のことだと思います。ただゲームクリエーターとしては、こういったリスクを許容するよう説得できなければ、良いゲームは作れません。ゲーム作りの一環、またはゲームクリエーターの仕事のひとつには、そのとき自分のやっていることが成功につながり、利益を生むのだということを適切な人に理解させることがあると思います。そしてその手法は次回以降にも役立ちます。「信用してください。ちゃんと全体を理解したうえでこれを話していますから」と言えますからね。
[ブライアン]: なるほど。
[稲船]: なのでもし、Dead Rising と Lost Planet の売り上げがものすごい不発に終わったとしたら・・・うーん・・・ゲームを作るときはいつもそんな感じなので・・・。鬼武者のときも似たような状況でしたね。もしここまでしっかり監修して強引にゴーサインをもぎ取ったタイトルが失敗したら、責任を取る準備はできていました。でも Dead Rising と Lost Planet について言えば、初期の段階から心の底で、この 2 本が売れないのならもう業界から身を引こうと考えていました。おかげさまで売り上げもよいので、本当にうれしい限りです。ただここで立ち止まるつもりもありませんから。Lost Planet が発売されたからといって止まる気はありません。ファンのために、リスキーで挑戦的なタイトルをたくさん準備中です。
[ブライアン]: それは素晴らしい。オウケイ、5 年後に今を思い返したとき、CAPCOM の歴史にとって Lost Planet はどういった意味を持つと思いますか?
[稲船]: ストリートファイター II が CAPCOM 社史上でマイルストーンとなったこと、あるいは初代バイオハザードの発売のように、Lost Planet と昨年の Dead RisingCAPCOM の新時代の始まりを示すマイルストーンになると思いますよ。まずストリートファイター II は CAPCOM の新時代の先駆けとなり、次に初代バイオハザードが続きました。Dead Rising と Lost Planet は CAPCOM 社史における 3 つめの大きなマイルストーンだと思っています。その理由は両ゲームに示されています。ご存知のとおり、日本市場は昔とは違います。CAPCOM では、少なくとも一部のタイトルについては、焦点を日本から米国とヨーロッパ市場に移しています。Dead Rising と Lost Planet は CAPCOM が単なる日本の開発会社ではなく、米国のトップ開発会社と肩を並べる、競争力のある会社だというイメージを確立する役に立ったのではないかと思います。これが、Lost Planet と去年リリースした Dead Rising の、CAPCOM 社史における意味だと思います。
[ブライアン]: それは素晴らしい。では、最後に質問させてください。昔は、ほぼすべての人気タイトルが日本製で、日本の開発者は世界最高だと思われていました。しかし状況は変わり、今は欧米側が業界をリードしています。これを考慮した上で、日本の開発者は欧米の開発者から何を学べると思いますか? そして、欧米の開発者は日本の開発者から何を学べると思いますか?
[稲船]: 私の意見では、今や欧米の開発会社が業界をリードしていて、日本側は失速している、というのは間違いのないことだと思います。しかし率直に言わせてもらうと、一体どれくらいの日本人開発者がそれを事実として受け入れているかは分かりません。まだ日本の開発者が世界トップだと考えている人もいるのではないでしょうか。ただ個人的には日本側は失速していると思います。そして失速したのだから、敗北者なわけです。負けているのだからさらに努力しなければならないでしょう。私たちは西洋の開発会社から何を学べるか、何を借りられるかを考えるべきだと思います。ただそうは言っても、日本の会社には、かつて優れたゲームを作っていたころの資質が未だにあります。以前業界をリードしていたころの良い部分は保ちながら、西洋の開発会社から学ぶ必要があります。先ほども言ったとおり、日本の開発者がアメリカの開発者から学ぶべきことのひとつに、アート、プログラミング、サウンドなど、ゲーム製作に関わるすべての作業を担当するスタッフの環境と QOL の高さがあります。日本では実現が非常に難しい課題です。アメリカ人が日本の作業環境を見たらびっくりすると思います。ゲームを開発している日本のゲームクリエーターは気が狂ったように働いていますから。これはアニメ業界など、日本のその他の業界でも同様ですね。そしてその働きに対する報酬は一般的にきわめて低い。早く変えないと、ゲーム製作に関わる人材が夢を持つのを止めてしまう。そして未来を担うはずの子供たちは、ゲーム製作業界に入るのを躊躇うようになってしまう。これは業界にとって大きな損失です。アメリカでは「アメリカンドリーム」に向けてしっかり仕事すれば、充分な見返りがあります。家を買うとか、いろいろ。その方がはるかにやりがいがあります。しかし一方で、アメリカでは作ったゲームがヒットすると、製作者たちが成功にのぼせてしまうことがある。日本の開発者たちはゲームがヒットしてもあまりエゴを持たないですし、これまでの品質を引き続き保ちながら、ゲーム製作に実際に携わっている優秀な人材の QOL を改善するよう取り組むべきだと思います。欧米の開発者のイマジネーションは本当に素晴らしいと思う。想像力や優れたアイデアを山ほど持っています。でも日本には勤勉さと自己犠牲の精神に加えて、企画について独自の良さがあり、細部へのこだわりもあると思う (訳注: この一文、原文の意味が分からないので適当です)。CAPCOM で品質を保ちながら今言ったようなことに取り組み、クリエーターと彼ら自身の QOL を最優先に考えられるようになれば、日本の現状を変えられるのではないか、と考えています。