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ゲームメカニクスの深みを評価する - gamasutra 記事翻訳

この記事は LYE が下記記事を勝手に翻訳して公開しているものです。誤訳がある可能性がありますのでできたら原典も併せて読んでみてください。



[元 Insomniac 社デザイナー Mike Stout 氏が、「冗長さのチェック」などを含む、プレイメカニクスの深みを評価する上で役立つ有益な解説文を寄稿してくれた。本稿では Ratchet & Clank シリーズなどから例を示しながら、ゲームデザインを詳細に見ていく]

問題

ゲームの開発においては、書類の上では優れたデザインに見えても実際には期待したほど面白くならないということが多々あります。こういったケースでよく聞くフレーズが「浅い (Shallow)」「単調 (flat)」などです。プレイテスター、パブリッシャ、同僚は「もっと多様性がないと」「同じことの繰り返しだ」と評するかもしれません。

ゲームデザイナーならば、この類の苦言はよく聞くことでしょう。 じっさい私自身もこれまでに携わってきたゲームで毎回そういった問題に直面してきましたが、この問題を解決に導くアプローチは 3 種類あると考えています。

ひとつは、プレイヤーが「ゲームは全体的に多様性を欠いている」と感じている場合に、ゲームメカニクスを追加する方法。これは、ゲームの幅 (Breadth) を膨らませるものと考えるとよいでしょう。

  • 注意すべきバズワード: ゲームには「長所がひとつしかない (one-trick pony)」「同じことの繰り返し (repetitive)」「もっと多様性を持たせるべき (need more variety)」
  • コンテンツの拡張 (訳注:ここでは、ゲームメカニクスの追加) で問題が解決できる場合、問題はゲーム全体に関するものである傾向が強い。ここでプレイヤーは、グローバルレベルで見て、ゲーム内でできることが足りないと感じています。

プレイヤーがあるゲームメカニクスを「単調 (flat)」で、「やりがいがない (unrewarding)」と感じる場合、プレイヤーに対するフィードバック (訳注:ここでは、ゲームからの反応) を改善する、報酬 (Reward) を増やす、エフェクトを改良する、サウンドやカメラワークをよりクールにする、個性を強めるなど、さまざまなものを付け加えることで、そのメカニクスの演出 (theatrics) を改良するという手があります。このような演出上のてこ入れをすると、苦言を呈したプレイヤーはかなりの確率で ― 根底にあるゲームプレイには一切変更を加えていないにもかかわらず ― 問題は解決された、と言うことが多いです。

  • 注意すべきバズワード: 現状のゲームメカニクスは「退屈 (Boring)」「同じことの繰り返し (repetitive)」「純粋に楽しくない(just not fun)」
  • 演出の改良で問題が解決できる場合、問題はそのゲームメカニクスひとつだけれど、通常、その内容は曖昧で「感覚的 (touchy-feely)」です。

プレイヤーがあるゲームメカニクスを「いまいちプレイ意欲を掻き立てない」と感じていたり、「このメカニクスは最初は楽しいが、すぐに飽きる」と感じている場合、デザイナーはメカニクスに深みを持たせる必要があります。

  • 注意すべきバズワード: 対象のゲームメカニクスは「浅すぎる (too shallow)」「簡単すぎる (too easy)」「単調 (flat)」。このような場合、プレイヤーは「最初は楽しかったがすぐに同じことの繰り返しになった/退屈になった」と言うことが多いです。
  • こういったフィードバックを受けた場合には演出にてこ入れをすると良いですが、この方法はメカニクスの賞味期限を少し延ばすだけの効果しかない事には留意する必要があります。演出を強化しても効果が無い場合は、本腰を入れて、袖をまくり、そのゲームメカニクスに深みを与える作業を始めなければいけません。


ここまでに説明した問題について個別に記事を書くことも可能ですが、本稿では、おそらくもっともトリッキーな問題、すなわち「深み」を取り上げたいと思います。 本稿を通じて、「なぜゲームメカニクスに深みが足りないのか?」を発見するために私が使うツールについて解説できればと考えています。さらに、浅い (Shallow) ゲームメカニクスの手直しをする上で非常に役立つテクニックも紹介していきます。

はじめに: 用語の定義

詳細な議論を始める前に、ここで用いる用語のいくつかを定義しておきます。

  • ゲームメカニクス (Game Mechanic):

本稿でゲームメカニクス (Game Mechanic)というとき、それはビデオゲームのゲームプレイを構成する主要なかたまり」を表します。名作 ゼルダの伝説 神々のトライフォース (The Legend of Zelda: A Link to the Past) から、いくつか例に出せば、「剣を用いて戦う」「ブロックを押し動かす」「ブーメランを投げる」「泳ぐ」「ボタンを用いたパズルを解く」「危険を避ける」「特定の武器を使う」などがゲームメカニクスにあたります。

  • チャレンジ (Challenge):

チャレンジとは、「特定のゲームメカニクスを用いてプレイヤーのスキルを試す、ゲーム内シナリオ」のことを表します。例えば、ゼルダシリーズのダンジョン内にある部屋、 『Ratchet & Clank』のレールスライド、『Halo』の会敵シーンなどがこれにあたります。

結局、「深み (depth)」とは何だ?

Dictionary.com では、depth (深み) は次のように定義されています: "The amount of knowledge, intelligence, wisdom, insight, feeling... evident either in some product of the mind, as a learned paper, argument, work of art, etc." (知識、知能、知恵、見識、意識の量 <中略> こころの産出したものや学術論文、議論、芸術作品などで明らかになるもの。)この定義でも明らかなように、深み (depth) とは極めて個人的な用語になりうるし、多数の人にとってそれぞれ異なる意味を持ちうる用語です。

私は、プレイヤーが、あるゲームメカニクスをマスターしたことを繰り返し披露するポイントが「深み (depth)」だと考えています。チャレンジとは、退屈し始めるほど長くてもダメなら、マスターしたメカニクスを存分に楽しめないほど短くてもいけません。

この意味での「深み」は、できるだけ多くのメカニクスに持たせたいものですが、それを獲得する方法はそうハッキリとはしていません。
私の経験上、ゲームメカニクスに深みを獲得させるには非常に重要な要素が 2 つあります。

  • 明確な目的が必要: プレイヤーが、ゲームを進めるために何をすべきか理解した状態にする。混乱や邪魔が入り込むと ― 例えばゲームを進めるために様々な手法を手当たり次第に試さなければいけないような状況が生じると ― プレイヤーはメカニクスの深みが足りないのではないかと感じる。
  • バラエティ豊かな、有意なスキル (Meaningful Skills) が必要: これがあれば、ゲームデザイナーは優れたチャレンジを作成でき、プレイヤーはそういったチャレンジを通じてスキルをマスターすることができる。

目標

チャレンジの開始時には、プレイヤーが目標を察することができるようにしておくべきです。その他、チャレンジの進捗情報を視覚化するのも有効な手でしょう。
明確な目標の提示は、ゲームメカニクスに深みを与える上での必須事項といえます。前述した通り、プレイヤーが取り組んでいるチャレンジの完了条件を理解できない場合には、意欲がそがれ、マスターしたゲームメカニクスを披露するかわりに、あてずっぽうに物を試すようになります。

有意なスキル

有意なスキルとは、チャレンジを開始から完了まで進める上で使う必要があるスキルすべてのことを指します。言い換えれば、(訳注:デザイナーの) 仕事は、プレイヤーがチャレンジの目標を把握した瞬間から始まるわけです。

ここで、有意なスキルについて改めて確認しておきましょう。「有意な」という単語は、この手法で非常に重要な意味を持ちますから。スキルがあまりに基本的に過ぎれば、ゲームメカニクスに深みを与える役目を果たさなくなります。そうなった場合スキルは、例えば買い物リストの項目にチェックマークをつけていくような、終わらせなければならない単純なタスクとなってしまうわけです。

基本的過ぎるスキルの古典的な例としては、「ポイント A から B へ移動する」というものがあります。 これほど根本的な移動操作をチャレンジにしてしまうと、プレイヤーにとっては「クリアするにはコントローラーのボタンを押し続けよう」と言われているのと同じになってしまうわけです。基礎的なものであっても、単純すぎて深みはないのです。
ここでよく考えてみて欲しいのは、「ポイント A から B へ移動する」というのはチャレンジの目標であって、目標を達成するために必要なスキルのことではない、ということです。
ほんの些細な区別に聞こえるかもしれませんが、実際、これは非常に重要な事です。ゲームメカニクスをデザインするとき、この切り分けができるようになれば、(いつもなら見過ごしていたであろう) 深みに関連する問題を認識できるようになります。

有意なスキル: 徳のお話

Ratchet & Clank 2 のジュニアデザイナー時代、私はゲーム中の 2 つ のレベル向けに「トラクタービーム」を使ったパズルを考える仕事を割り当てられたことがありました。トラクタービームは、特別なマークのついた巨大オブジェクトを自由に動かせるようにするゲームメカニクスで、本質的にはゼルダの伝説などのゲームにある古典的なブロックプッシュ型のチャレンジに、演出を加えて作り直したものです。

トレーニング向けのものはすぐに思いつきました。単純にブロックをポイント A からポイント B に移動させて、移動したブロックの上に飛び乗って脱出する、というものを作ればよかったからです。しかし問題はそこからです。高度なチャレンジが考えつかなかったのです。ここで私はすぐに行き詰まりました。 ブロックを別の場所に動かすというのは、スキルと呼ぶにはあまりにも基本的でした。トレーニング以降のチャレンジの難易度を「高めて」、徐々に難易度を上げながら多様なチャレンジを作ることができなかったのです。
つまるところ、当時の私はまだ、「有意なスキル」「基本的すぎるスキル」の区別がついていなかったのです。また、明確に理解できる目標がどれほど重要かということも理解していませんでした。経験が足りなかった当時の私は、最終的にメカニクスに十分な深みがつくまで、フィーチャー (feature) を追加していくことにしました。今ウワァ…と言ったあなた、仲間ですね。 私自身も、これを書きながら私もウワーと言っています…。

最終的に私は、ブロックをあちこち動かすことは一旦忘れておき、ロボットを掴んで引きずり回せたらすごいんじゃないかというアイデアを思いつきました (今「なるほど、演出上のてこ入れ、ね」と思ったあなた、クッキーあげます)。そしてそこから、掴んだロボットをプレイヤーがボタンの上に落とすと、ドアが開くという仕組みを考えました。ただこのアイデアでは思ったほど深みが得られず、メカニクスは浅いままでした。
そうして私は、頑張ってフィーチャーを足していったわけです (ウウウ...)。
次に、(トラクタービームで動かせるアイテムとして) 爆弾とスリングショット (パチンコ) を追加して、ドアを爆破したり、爆弾を飛ばしたりできるようにしました。
さらに、ブロックを使ってレーザーを遮断できるようにし、うまく使うと通り抜けられるようにしました。
さらにさらに、特定のドアを爆破できる爆弾ロケットを内蔵したスペシャルブロックも追加しました。
そして最後に、ブロックをフロアの溝にはめこむ仕組みを追加しました。これは指定の順番にブロックを配置させるもので、複数のブロックを使わないと溝が埋まらないため、ブロック同士が邪魔になるという仕組みでした。

そしてフィーチャーの追加が終わるころには、私の名前は何人かのプログラマ「あいつだけは許さないリスト (Hate List)」に深く刻まれることとなりましたが、一方でトラクタービームのゲームメカニクスは急速に肥大化し、大きくなりすぎていました。プレイヤーが遊ぶには複雑になりすぎていたのです。プレイテストのチームからは「プレイヤーが何をしたらいいかわからない状態が続く」というフィードバックが返ってくるようになりました。最後には、プレイヤーが何をするべきなのか理解できるよう、全体の半分の時間をトラクタービームのトレーニングに充てる羽目になりました。

今振り返れば、あのメカニクスが深みを獲得できなかった理由は明白です。新しい目標ばかりを追加して、有意なスキルを追加できていなかったのです。

以下ではもう少し詳細に見ていきます。上の例を出したのは、目標と比べて有意なスキルがどれほど深みを与えるのかを強調したかったからです。
この経験から、私は貴重な教訓を学びました。それは「深みが足りないと感じるゲームメカニクスの多くは、目標ばかり多くて、有意なスキルが足りない」というものです。

ステートメントを作成する

もしあの時に戻れたら、トラクタービームのメカニクスを深めるため、今の私はどんな手を打つだろうか?今の私が最初に思い浮かべるのはセグメントのチャレンジごとに「アクティビティステートメント」を作成することです。
アクティビティステートメントとは、チャレンジと目標と、プレイヤーがチャレンジをクリアするためにマスターする有意なスキルの両方を、シンプルな文章で記したチャレンジの説明文のことです。

例えば、台をのぼるチャレンジのアクティビティステートメントは「(プレイヤーに) ゴールの台までジャンプしてのぼって欲しい」のようになります。このとき「ジャンプしてのぼる」が有意なスキル、「ゴールの台」が目標です。

より複雑なアクティビティステートメントとしては「(プレイヤーに) 垂直にダブルジャンプしてからグライダーにつかまり、ゴールの台までたどり着いて欲しい」「(プレイヤーに) 噴き出す炎に当たらないタイミングでジャンプして欲しい」などが考えられるでしょう。

上記のアクティビティステートメントには、目標と有意なスキルの両方が混ざっています。 ではそのうち一方を削除してみるとどうなるでしょう?チャレンジに明確な目標がないと深みが出ない、というのは見てきました。しかし、浅いと感じられるゲームメカニクスには目標が多数あり、有意なスキルが少ない傾向があるのも本当です。


下記に、「昔の私」がデザインしたトラクタービームのチャレンジをアクティビティステートメントにしてまとめてみました。

  • 「(プレイヤーに) ロボを初期位置から床のボタンがある場所まで移動させて欲しい」
  • 「(プレイヤーに) 爆弾を初期位置から指定のドアの前まで移動させて欲しい」
  • 「(プレイヤーに) ブロックを初期位置からレーザーがブロックされる位置まで移動させて欲しい」
  • 「(プレイヤーに) 爆発ロケットブロックを床のボタンがある場所まで移動させて欲しい」

お気付きのとおり、上記ステートメントには目標はありますが、有意なスキルがひとつもありません。そして 4 つのステートメントの目標はすべて同じで、しかも内容は大して面白くないのです。
ステートメントの内容は基本的に「ポイント A からポイント B まで移動しろ」というものです。これまで見てきた通り、こんなに基本的なスキルではゲームメカニクスに深みは出ません。
昔の私がデザインしたあと 2 つのチャレンジは、多少の「深み」を与えていたようです。

  • 「(プレイヤーに) 爆弾を初期位置からスリングショットまで移動させ、スリングショットを発射して敵を爆破して欲しい」
  • 「(プレイヤーに) 溝に沿ってブロックをスライドさせて、指定の順になるよう並べて欲しい」

この 2 つのアクティビティステートメントにある「スリングショットを発射して敵を爆破する」「指定の順になるよう並べる」は、他のスキルに比べてだいぶ有意なものだと言えるでしょう。
これらを踏まえた上で過去の私にアドバイスすると、次のようになります。

  1. 基本的すぎるスキルや目標の大部分を取り除く: 過去の私が作ったチャレンジの大半は、突き詰めれば「ドア近くにあるオブジェクトを拾ってドアを開けろ」と言っているようなもので、それが爆弾でも爆発ロケットでも同じです。冗長な部分は消し飛ばして、プレイヤーのほうを向いたシンプルさを追求しろよ! 昔の俺!今すぐやれッ!
  2. より深みのあるメカニクス 2 つを精査して、メカニクスひとつにつきチャレンジを 2 つ作る: 昔の私は、チャレンジごとにアクティビティステートメントを書くところからデザインを始めるべきです
  3. 新しいチャレンジをゲーム内で動くプロトタイプにする
  4. 新しいチャレンジをプレイテストする
  5. それでも全体的に浅い場合は、リストに "有意なスキル" (「目標」ではない点に要注意!) を追加して、ステップ 1 からやり直す

メモ: これまでに扱った例はパズル的なゲームプレイばかりでしたが、パズルを作るための話をしていあるわけではありません。この「考え方」からは、様々なタイプのゲームメカニクスを考える上で有益なアイデアが得られると思います。
例えば、銃を使った戦闘のメカニクスが「浅い」と感じるとします。その理由はもしかして「銃を使って敵を殺す」が有意なスキルにならないからではないでしょうか?実際、それでは「目標」です。 『Ratchet & Clank』において、銃を使った戦闘のアクティビティステートメントは「正しい武器または複数の武器の正しい組み合わせを選んで、可能な限り効率的に敵のグループを殺すこと」のようなものでした。
デザインのフェーズにおいてアクティビティステートメントを使うようにすると、有意なスキルを (およびそのベースとなるメカニクスも) 従来よりも確実に含められるので、ゲームデザイン全体に深みが増し、満足度も高くなります。

アクティビティステートメントを曖昧にしない

アクティビティステートメントは極めて有用なツールですが、使い方によっては面倒のもとにもなりえます。例えばアクティビティステートメントを曖昧にしてしまうと、すぐに問題が生じます。

これ以降では、『Portal』のゲーム内のほぼすべてのチャレンジに適用できるシンプルなアクティビティステートメントを例に見てみましょう。

  • 「(プレイヤーに) ポータルガンを使って、ブロックをボタンの上に移動させて欲しい」

このシンプルなアクティビティステートメントに提示されたスキル (ポータルガンを使う) は有意なスキルになっていますが、このような曖昧なステートメントだと、幸運に恵まれない限り問題が生じることになります。
『Ratchet & Clank』シリーズにおけるクランクのゲームプレイは良例です。
クランクのチャレンジは Insomniac 社のデザイナー (私自身も含めて) にとっていつも悩みの種でした。デザイン中は深みのあるアクティビティになったはずだと思っていたアイデアが、いつもそうならなかったからです。
そういった場合、個性を足したり思い切ってシンプルにすることで対応しました (そう、演出の改良です!)。しかし満足いくまで深みを出すには、何度もやり直さなければなりませんでした。プレイヤーの皆さんには好評だったようですが、社内ではもっと良くできたと思っていました。

『Ratchet & Clank』シリーズの最初の 2 作では、ガジェボット (コロコロついてくるかわいい小型ロボ)に障害物エリアを通り抜けるよう命令を出す場面がありました。障害物エリアは複数種ありましたが、結局は全部同じような感じになってしまいました。エフェクトやかわいいアニメーションは追加したものの、やはり基本的にはかなり浅いものだったと思います。
アクティビティステートメント「(プレイヤーに) ガジェボットたちに障害物エリアを通り抜けるように命令を出して欲しい」は、結局のところ曖昧すぎました。このステートメントでは、メカニクスが深いかどうかを判断するための情報が足りなかったのです。

それでは時間を早送りして『Ratchet & Clank Future: A Crack in Time』を見てみましょう。この作品でクランクは、アクションを記録して、ホログラムに記録したアクションを再生させる能力を手に入れます。
こういう能力があると、非常に複雑なアクティビティステートメントを持ったチャレンジをデザインできます。たとえば、「(プレイヤーに) ドアを開けるボタンまで行く動作を記録して欲しい。その後、記録した動作を再生して、ホログラムがボタンを押してドアが開いたらドアを通り抜けて欲しい」のように。ここで「ボタンのところまで行ってドアを開けて欲しい」「ドアを通り抜ける」というのは明確な目標に、「行動を記録する」「記録した動作を再生する」という優れた有意なスキルになっています。
この例では、メカニクスは深みを増し、アクティビティステートメントの曖昧さも大幅に減っています。

演習: 深みを与えてみる

では、手元にゲームデザインがあって、すごく面白くなりそうなアクティビティステートメントがあるとしましょう。しかし、プロトタイプを作ってみた (あるいはそれ以上進めてみた) ら、どうもメカニクスが浅いように感じられます。次に何をすればいいでしょうか?

まずは出来ているものを評価してみましょう:

  1. 目標を特定し、全部挙げてみましょう
  • 各目標について「この目標はリストにある他の目標と機能的には同じではないか?」と自問してみましょう。同じものがある場合は、本当に必要かどうか吟味してください。本当に、この目標を達成する方法をプレイヤーに教えたいですか?この問いに対する答えが「いいえ」ならば、対象の目標に取り消し線を引いてしまいましょう。
  1. 有意なスキルを特定し、全部挙げてみましょう
  • 有意なスキルそれぞれについて、「これは本当に有意なスキルだろうか?」「スキルが基本的すぎないか?」「目標ではないか?」と自問してみましょう。
  • 「この有意なスキルは、リストにある他の有意なスキルと機能的には同じではないか?」と自問してみましょう。もし同じであれば、取り消し線を弾いてしまいましょう。同じものがあるということは、「有意なスキル」の数を過大評価してしまっているということです。

これで、出来ているものの評価は一通り終わりました。さて、目標は多すぎないですか?有意なスキルが不足していませんか?この時点では、おそらく、そうなると思います。ここで、トラクタービームの例で「昔の私」に対して出したアドバイスをなぞってみましょう:

  1. 新たに有意なスキルをリストに 1 つ以上追加してみましょう
  • 追加するときには、必ず上記の質問、「このスキルは本当に有意なものだろうか?」「基本的すぎないだろうか?」「本当に目標だろうか?」を繰り返し自問しましょう。
  1. すべてのチャレンジを見直して、アクティビティステートメントを改良してみましょう。
  2. 新しいコンテンツのプロトタイプを作成してみましょう。
  3. プレイテストしてみましょう。問題は解決したでしょうか? 解決したら、これで OK です!
  4. 問題が解決しない場合は、手順 1 に戻ってやり直してみてください。

考慮すべき事項

本稿の最初に述べたとおり、「メカニクスに深みを持たせる」というのは常にやるべきことであるとは限りません。メカニクスに深みを持たせるには大量の作業が必要になります。その前に、以下の項目を自問してみてください。

  • このメカニクスに深みを持たせたとき、対象ユーザーは楽しんでくれるだろうか?
    • 低年齢層向けのゲームでは、浅めのゲームメカニクスをたくさん用意する傾向があります。その優れた例が『Lego Star Warsでしょう。この点、同作は非常によくできています。
    • 対象ユーザーは本当に深みを求めているだろうか?比較的カジュアル向けゲームでは、アクティビティの深みよりもバリエーションのほうが効果的です (フィットネスゲームや『WarioWare』などがこれにあたります)。
  • 「チャーミングな」ゲームメカニクス
    • メカニクスの最重要目的が「チャーミングさ」「個性」を表現することである場合、深みや高度なチャレンジはプレイヤーにとっては過剰に凝ったものとなり、逆に邪魔になってしまう可能性があります。
    • 上述した『Ratchet & Clank Future: A Crack in Time』のクランクのゲームプレイは、この事項の良例と言えます。
      • 行動を記録するゲームプレイ要素は、ゲームレビューの評価では賛否両論となりました。
      • またこのメカニクスを導入するため、プレイヤーは大量のトレーニングをこなしてヘルプメッセージを読まなければなりませんでした。ゲーム全体で見ればごく小さなボリュームしか占めないメカニクスだったことを考えると、あまり理想的とは言えません。
      • クランクのセクションは、プレイヤーの目には「面白いサブゲーム」のように映ったかもしれませんが、新スキルの習得に長々と時間がかかることが避けられる要因にもなったかもしれません。
  • 物語のゲームメカニクス
    • 一部のゲームメカニクスは、プレイヤーに何かを「感じてもらう」ことや、物語を伝えることを目的としていることがあります。この場合、深みや高難易度は「感じて欲しい」ことを伝える上で邪魔になる場合があります。
    • 『Indigo Prophecy』Heavy Rainの 2 作は、全体を通じて物語の (Narrative) ゲームメカニクスをうまく扱っていると思います。

ひととおり終えて、メカニクスの「深み」が望むレベルに達したと判断したら、各メカニクスに明確な目標と有意なスキルのセットが備わっていることを再確認しましょう。上述の演習を活用しながら、基本的すぎるスキルと有意なスキルをしっかり見極めるようにすれば、ゲームメカニクスの評価とトラブルシューティング、深みの付与がうまくいく確率は高くなるでしょう。

おわりに

本稿では、ゲームメカニクスをブレークダウン (分解、Break down) していく具体的な方法を提唱してきました。 また目標と基本的過ぎるスキルではなく、有意なスキルに注目することの重要性を指摘してきました。
本稿で解説した手法は、私自身は要素のブレークダウン手法として非常に有益だと思っていますが、これが他の手法よりも「正しい」と主張する意図は一切なく、多数ある有効な手法の一つであると考えています。

フランスの数学者アンリ・ポアンカレ (Henri Poincare) 氏は著作『科学と方法』(Science and Method) で「幾何学とは真理ではなく便宜である(訳は LYE、超門外漢なのでちゃんと解釈できてる自信なし)」(Geometry is not true, it is advantageous.) と述べています。

これは、ゲームデザインの思考モデルについても当てはまります。どの手法も真理ではありません。便利であるだけです。私自身にとって、ここに提案したモデルはゲームメカニクスの深みを評価、予測、トラブルシュートする上で、非常に有用なものでした。同様の目的に活用するのであれば、きっとあなたのベストパートナーになってくれることと思います。