ゲーム・デザイン・コグニション (認知):ボトムアップ/トップダウンアプローチ

翻訳・要約担当者からのまえがき

  • 注意1:下記の翻訳はLYEが個人的に翻訳したものです。誤訳等がある可能性があります。
  • 注意2:専門的な用語は趣味の範囲内で調べましたが適当でないものがある可能性があります。突っ込みいれていただければ喜んで修正したいと思います。
  • 注意3:記事末尾に、訳者による各レイヤーの説明があります。

ゲームデザイン認識:ボトムアップ/トップダウンアプローチ

この業界でよく聞くフレーズに、ゲームデザインプロセスの最初と最後、すなわちプロセスの源泉と成果物は”楽しさ”という単語ひとつでつなぐことができる、というのがある。しかし楽しさを創造する、とはどのような行為なのだろうか?また、ゲームデザイナや開発者はどうやって「おもしろいコンセプトを定義、具体化し、最終的に実装」しているのだろう。本記事のテーマ、「ゲームデザイン認識」とは、これを明確に理解しようとする行為だ。
何もないところから楽しさを創造することが求められるこの業界を次の段階に進化させるには、このプロセスを理解し、向上させることが必要不可欠だ。しかし今日手に取ることのできる参照資料にはゲームのメタデザインに関する記述が乏しい。本記事は、このプロセスの概略を紹介することで「直観的には使っていたが理解していなかった」各種手法を理解/認識し、ゲームデザインプロセスに関する議論を可能にすることを目的としている。最初に例をあげてみよう。
God of War(アクションゲーム)
このタイプのアクションゲームをデザインする際に定義されたと予想される事項

  • メインコンセプト:抒情詩的、TPS、バイオレンスなアンチヒーロー
  • コンテキストと環境:古代ギリシャの神々による争いに主人公が巻き込まれる
  • フィーチャーとコンテンツ:コンボ、武器、レベル
  • メカニクス、動詞 :神の力を使えるシステム、パワーアップ、ジャンプ、弱/強攻撃などのプレイヤーのアクション

一覧にすればシンプルだが、全体をおもしろいゲームとしてまとめ上げるのは非常に複雑な作業である。実際にゲームをデザインする際には、上記レイヤー間で要素が有機的に行き来することが多いからだ。ここでは、ゲームデザインにおけるトップダウンアプローチとボトムアップアプローチに対する理解を支援するために、各レイヤーとそれぞれの関係の階級的な構造を示していく。

ゲームデザインにおける認識

ゲームデザイン認識プロセスはひとつのアイデア(ゲームプレイに具体化していくコンセプト|コンセプトに逆変換されていくゲームプレイ)から始まる。 そのアイデアを基に思考と具体化を繰り返すことで、実際のゲーム素材が創造される。 では、こうした一連のプロセスを分析し、デザイン上の要素にまで分解してみよう。

ゲームのデザインをレイヤーで認識する

ゲームデザインは複雑なプロセスだが、ここでは各要素をレイヤーに分けて見てみよう。 すべてのレイヤーは、下位レイヤーを一般化または抽象化した内容となり、同時に上位レイヤーを特殊化、具体化したものになる
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各レイヤーの説明

コンセプトレイヤー

一般的にコンセプトとは「アイデアの抽象的な説明」を意味する。
ゲームではゲームのスタイル、一般設定、キャラクタや人間関係を含めたメインストーリーの基本要素を説明する短いフレーズを指す。
ゲームのコンセプトは通常短いが、ゲームを定義する重要なものである。
開発者は、開発サイクル全体でこれを意識し、ゲームの各要素がコンセプトに沿っているかどうかを確認する必要がある。 上記の理由からゲームのコンセプトは最上位レイヤーとして扱う。このレイヤーは以降のレイヤーをまとめてゲームデザインを統括する機能がある。
ゲームコンセプトは、そのゲームのビジョンと焦点を定め、ゲームデザインと開発プロセスに創造的刺激を与える。このため、これを適切に定義しておくことはゲームデザイン上非常に重要だ。 またコンセプトは、トップダウンアプローチの開始点である (後述)。
強力なコンセプトに基づいて作成されたゲームの例として Diablo を見てみよう。このゲームは「戦闘アクション、アイテム収集、ダンジョン探検の3点に重点を置いたファンタジーRPG」と説明することができるだろう。ゲーム全体はこのコンセプトに基づいて構築されており、プレイヤーはより強力なアイテムを入手することでダンジョンのさらに奥まで探検してより多くのモンスターを倒すことができるようになり、その結果さらに強力なアイテムを入手できる…、というようにプレイ動機を生み続ける。
前述の通り、コンセプトは最も抽象的なレイヤーだ。ということは、これ以降のレイヤーはより詳細で具体的なゲームアイデアの説明に変化していく。

コンテキストレイヤー

本記事の定義では、ゲームのコンテキスト (Context、文脈) はプレイヤーに示されるストーリー、背景情報、ゲーム動機から構成される。 なぜプレイヤーがその行動をしているのか、城から姫を救い出さなければならない理由は?エイリアンの侵略から世界を守る理由は?などがそれにあたる。
コンテキストは必ずしもストーリー主導である必要はないが、プレイヤーが抵抗なく理解できる、ゲームの具体的な概念である必要がある。プレイヤーがゲームを進めるために何らかの決定をするとき、プレイヤーはゲームコンセプトの影響を受けながら、それに基づいて決定を行う。
FPS/TPS なら武器の選択、RPGならセリフの選択、格闘ゲームなら避けるか攻撃するかの選択などがある。ゲームで何かを決定する場合、それに何らかの意味が備わっていることが望ましい。たとえそれが審美的観点から追加されたものであったとしても。
またゲームの雰囲気をより豊かにするため、プレイヤーが何か決断する際にはコンテキストも利用したほうがよいだろう。プレイヤーが行うすべての判断には、A) 明確な目的と、B) それによって引き起こされる結果が用意されていることが重要だ。それらがない場合は、ゲームを円滑に進めるため、ゲーム側で調整が必要になる。
例: BioShockには武器を使用しないエリアがあるが、ゲーム側ではこのとき、武器の選択を無効化するように設定されている。これによりプレイヤーは、「武器は選択できるが使用できない」という意味のない状況に陥らずにすむ。
コンテキストは必ずしもストーリーラインと絡ませる必要はないが、コンテキストの最も重要な目的は「プレイヤーをゲーム世界に引き込む」ことであるということは覚えておく必要があるだろう。
クロノトリガーを例に挙げてみよう。プレイヤーはこのゲームで、ガルディア王国の住人であるクロノとその友人となる。ゲームのコンテキストとして異なる時代のガルディア地域が用意されており(訳注:コンテキスト)、プレイヤーはそこで冒険を繰り広げ、過去時代で行った活動が未来に影響する(訳注:A) 明確な目的と、B) それによって引き起こされる結果)。
もうひとつの例として、Wii Sports について考えてみよう。このゲームには、プレイヤーを導くストーリーは用意されていないが、ゲームのコンテキストはあらゆる層に馴染みのあるいくつかのアクティビティ(訳注:みんなルールと目標を把握している)で構成されている。

コア (核) レイヤー:コンテンツとフィーチャー

コンテキストでは、ゲームコンセプトをいくらか ”素材” 的な面からアプローチして定義したが、それだけではゲームの具体的なコンポーネントは足りない。例えば、ゲームのコンセプトとコンテキストだけなら、少し調整すれば映画や本にもできる。ゲーム固有の機能性が明確になってくるのはこのレイヤーからだ。
ゲームのコンテンツとは基本的に、プレイヤーがゲーム内で見て触れることを指す。
プレイヤーのアバター自体もゲームコンテンツであるし、他のキャラクター、武器、アイテム、シナリオオブジェクトなどもそうだ。これらはすべて、ゲームシステムを使用してプレイヤーとの間でやり取りをするために配置される。コンテンツは、プレイヤーの視点から見て具体化したものである、とも言えるだろう。
一方でフィーチャーは、ゲームプレイの中間レベルの説明であり、ユースケース (分隊指揮、乗り物の運転など)(訳注: ユースケース = ユーザが目標としている事項で結び付けられた要素の集合) や一般的なシステムの説明 (物価変動、リアルタイム Cloth Physics) とも呼ばれ、ゲーム内でプレイヤーが接触できる/接触されるもので構成される。この要素はまた、プレイヤーがゲーム内で行ったアクションから予測されるゲーム側の反応を定義するものでもある (破壊可能な環境、感情を自然に示す NPCなど)。

コンセプトとコンテキストがゲームの第一印象と全体的な理解を担当するレイヤーであるのに対し、コンテンツやフィーチャーは、プレイヤーに「もっとプレイしたい」と思わせることを目的としたレイヤーで、ゲームの中心的要素といえる。
この2つを組み合わせることにより、コンセプトとコンテキストが持つインタラクティブ性が決定される。フィーチャーはどのコンテンツを構築するかを示す設計図で、ゲームプレイを具体化する。このため、コンテンツとフィーチャーはプレイヤーにとってゲーム体験の中心的な役割を果たす。
本記事で紹介するレイヤープローチでは、プレイヤーに与える影響の大きさを考慮し、この2つのコンポーネントを1つのレイヤーにまとめてコア (核) と呼ぶことにした。
トップダウン式とボトムアップ式の最も重要な違いは、コンテンツ/フィーチャーと他のレイヤーの関係によく表れている。
トップダウン式
フィーチャーがコンテンツを抽象化する
[結果/目的]
目標とするゲームメカニックを作成する

ボトムアップ
コンテンツがフィーチャーを抽象化する
[結果/目的]
目標とするゲームコンテンツを作成する
上記で見たとおり、コンテンツ/フィーチャーのどちらがより抽象的かを決めることは不可能である。コンテンツとフィーチャーの関係は、「Open-Ended」と「Scripted」という別の視点からも見ることができる。

Open-Ended:

ゼルダGTA:ゲーム環境中に用意されたオブジェクトとキャラクターの動作を活用して、プレイヤーにやりたいことをやらせるフィーチャーがメイン。フィーチャーはコンテンツよりも具体的でなく、かつ根本的である。これは、プレイヤーが冒険する世界をより生き生きとしたものにするのは物の色や雰囲気ではなく動作であるためだ。

Scripted:

Half-LifeMetal Gear Solid:ゲームデザイナーがプランしたコンテンツをそのままプレイヤーに提供することがメイン。コンテンツはフィーチャーよりも具体的でない。目標とするゲーム体験を提供するのは物の実際の配置であり、物の動作はコンテンツに求められる程度のレベルを満たしていれば良いため。

メカニクスレイヤー

ゲームのメカニクスはゲームデザインの脳にあたる部分だ。ゲーム内でアクションを実行するとき、プレイヤーは現在のゲームの状況で使用できる動詞のひとつを起動する必要がある。起動した「動詞」はルールのセットにより内部的に処理されて出力される。この部分の処理がメカニクスレイヤーの担当だ。ゲームのメカニクスは車のボンネットの中で回転するギアのようにデザインされなければならない。
プレイヤーが理解すべき事項は「アクセルを踏み込む」と「車が動き出す」ということだけであり、エンジンがどのように動作しているかではないからだ。
ゲームデザイナーは、他の開発者に目標とする出力を正確に伝えられる (共有できる) よう、メカニクスについて明確かつ詳細に理解しておく必要がある。メカニクスレイヤーの最も重要なコンポーネントは、フィーチャーとコンテンツ(上位レイヤー) を活き活きとしたものにするために、システムによる動詞 (メカニクスの下位レイヤー) のコントロールと、実行されたアクションに対してプレイヤー/ゲームにフィードバックを返すプロセスを定義することだ。
例:ワンダと巨像(Shadow of the Colossus)
プレイヤーのほとんどのアクションは画面右下に表示される小さい円(腕力メーター)に集中している。
腕力メーターは実行するアクション (巨像を弓/剣で攻撃するなど) に使用できるパワーを示す。
プレイヤーが何かにぶら下がったままだったり、その他疲れる行動を続けていると、パワーの最大値は減少する。
ボタンを押すとメーターが徐々に増えはじめ、もう一度押すとそのパワーで攻撃する。 <
激しい動作を続けるとキャラクターに疲労が蓄積されるため、フルパワーで攻撃し続けることはできず、どこかで休憩を挟む必要がある。

動詞レイヤー

このレイヤーはゲーム中にプレイヤーが実行するアクションで構成される。
動詞には「射撃」、「ジャンプ」、「ブレーキをかける」、そして「カメラの視点を変える」、「アイテムを作成する」、「部隊を移動させる」などがある。
ゲーム内で使用できる動詞はゲーム内の状況によって決定、制御される。GTAなら「自動車の中」という状況で使える動詞は「アクセルを踏む」、「ブレーキをかける」、武装時なら「射撃」、「リロード」などのようになる。
ゲームの状況とその状況で使用できる動詞には、プレイヤーによる「学習と記憶」というゲームの重要な側面を示す認識プロセスと関係がある。ゲームの仕様を作成する際、ゲームデザイナーはその用途と、ゲーム内の状態、ステータスとの関係がゲーム全体で一貫性を保持しているよう注意する必要がある。またデザイナーは、プレイヤーがゲーム中に何を学ぶのか、そしてプレイヤーが学んだことに反する行動を取ってくれると期待してはいけない、ということを真剣に考慮する必要がある。たとえば、それまでは「車内では発砲できない」というルールが適用されていたのに、突然発砲できるようになる(もっとひどい場合はそうしないとゲームを進められない)というような変化は、ユーザーに明示的かつ具体的に紹介した上で導入する必要がある。

動詞から始めるアプローチ: ボトムアップアプローチ

ボトムアップアプローチについて話す前にここでの定義とErnest Adams氏の記事“The Designer's Notebook: The Perils of Bottom-up Game Design”におけるボトムアップアプローチの定義の違いを明確にしておこう。
Adams氏の記事では、ボトムアップゲームデザインはゲームには無関係な既存のメカニズムをゲーム構築の基にした場合に発生するものであるとある。 Adams 氏はこういったアプローチはゲームメカニクスを不必要かつ過剰に複雑にすると指摘している。根本的な違いは、我々はボトムアップデザインではなくボトムアップ認識について話しているという点だ。このためメカニズムは必然的にゲームに合わせたものになる。私たちはこのレイヤーで動詞について話しており、動詞自体がすでにゲームのコンポネントであるので、(氏の定義では “ボトムアップ”である)ゲームと無関係なメカニクスは私たちのアプローチではトップダウンプロセスでゲームシステムに変換、変形させるものになる。
ボトムアップゲームデザイン認識とは、言わば、際立って楽しいゲームプレイの動詞やメカニックを見つけ、それをゲームとしてまとめるために適切なセッティング、コンテンツとストーリーで補完するプロセスに見られると言える。これは、名作ゲームに携わるゲーム開発者の多くが使っているプロセスだ。
例:Doom と Quake
David Kushner 氏の著書「Masters of Doom [Amazon]」にある通り、これらのゲームは、Carmack 氏と Romero氏が作り上げた、残虐でつきぬけたシューティング要素をゲームとしてまとめるための作品だった。
たとえば、次のプロジェクトで、「標的をより小さく、より弱いパーツに分裂させ、小さく分裂したパーツをさらに撃つことができる特殊な武器」を使用したFPSを作るとしよう。それはどんな種類の武器だろうか?撃つ対象(物?人?)は?どんなふうに分裂するのか?そもそも敵と戦う理由は?ボトムアップ認識プロセスの核となるのはこういった質問である。
一方で、既にあるゲームの拡張要素をデザインするタスクなども典型的なボトムアップアプローチの適用事例だ。拡張要素を開発する場合、 ”主要なゲームプレイはそのまま維持する” ことが前提であることが一般的なため、ほとんどの動詞、メカニクス、そしてフィーチャーレイヤーですら最初から定義されていることが多い。その際、デザイナーはゲームの他の部分にうまくかみ合うコンテンツとコンテキストを定義しながらも、プレイヤーが慣れ親しんだ設定を残し、しかも新しいゲーム体験を提供する必要がある。

まとめ

ゲームデザイン認識に秘訣はない (認識プロセスには秘訣などないか…)。
しかしこの記事で、実際のゲームデザインプロセスには「トップダウン認識」と「ボトムアップ認識」の両方を組み合わせたアプローチが含まれる、ということを示せたと思う。
また、この記事をきっかけにゲームのメタデザインについて興味を持ってもらえればこれに勝る喜びはない。


用語集

コンセプト(Concept)

ゲームのスタイル、全体的な設定、キャラクタや人間関係を含めたメインストーリーの基本要素を説明する短いフレーズ。

コンテキスト(Context)

直訳で文脈。ゲーム内の環境とも言い換えられるかもしれない。最も重要な目的は「プレイヤーをゲーム世界に引き込む」こと。「設定や、入力に対する出力に説得力を持たせる」要素。

フィーチャー (Feature)

訳者の理解としては、Mass Effect の会話システムなんかが分かりやすい例だろうか。プレイヤーに「もっとプレイしたい」と思わせることを目的とする。ゲームプレイのメイン要素。

コンテンツ(Content)

キャラやアイテムなど、ゲーム内の物/人など。プレイヤーに「もっとプレイしたい」と思わせることを目的とする。ゲームプレイのメイン要素。

メカニクス(Mechanics)

ゲームデザインの脳にあたる部分。ゲーム内で実行された「動詞」をルールセットで内部的に処理して出力する。

動詞(Verb)

ゲーム中にプレイヤーが実行するアクション