人生初の GDC 2012 にいってきました
今年、人生初の GDC 2012 にいってきました。以下、GDC の個人的感想です。
出発前から意識してローカライズ、サウンド管理、心理学、フォーカステスト、ゲームデザインについてのセッションをできるだけ受講する計画だったので、以下の内容もそれらセッションから得られた所感であると捉えていただければ幸いです。
Localization Summit
今年は SimShip が常態化した世界において、次にすべきことがはっきりと 2 つ顕在化した年だったと思います。
ローカライズと自動化
ひとつは自動化。「以前は Excel だったのですが」というフレーズは今回の GDC で何度か聞きました。履歴保持、ファイル受け渡し、文脈調査などが自動化される、ローカライズ/音声管理ツールを社内開発している事例は Blizzard 社、スクウェアエニックス社、Ubisoft 社、Crytek 社、など多数あり、ひとつのホットトピックだったとも言えると思います。
またオーディオ関連セッションでも、手作業は悪といっても差し支えないくらいにワークフローの最適化が発表されていました。オーディオとローカライズで同一管理ツールを使うのはかなり一般的なので、これからツールの社内開発を考える場合には、サウンドとローカライズの両部署から要件の吸い上げを行なって欲しいなあと思います。Blizzard 社、スクウェアエニックス社、Ubisoft 社のツールは機能、仕様含めて素晴らしかったので、ぜひプレゼンテーションをご覧ください。
- Audio Localization Done Right: Simultaneous Scripting and Recording
- Hikaru Taniyama (Square Enix) and Masaharu Shibayama (Square Enix)
- Crysis Management: Localization from a Developer's Perspective
- Judith Matz (Crytek)
- StarCraft II - Carte Blanche Localization
- William Barnes (Blizzard Entertainment)
- How To Ship a Game With Voices In 10 Languages? ...On the Same Day? ...And Keep It Consistent?
- Alexandre Piche (Ubisoft)
ローカライズとマーケティング
さて、もう一つ今回のGDCで個人的に大きく取り上げられているなと感じたのが、Localization Summit には限りませんが「マーケティング」でした。この場合のマーケティングとは、販売促進活動はもちろん市場調査の意味も含みます。たとえば Localization Summit のパネルディスカッション、『Panel: Conquering European Localization』では、Bioware 社のローカライズプロデューサーがヨーロッパ内での文化差を把握するべく地域ごとにフォーカステスティングを行っていること、ゲーマーコミュニティからの意見を次の作品に反映したことなどを紹介。また LocLab 社の方からは、スペイン、トルコ、イタリア市場では、英語で公開していたモバイルゲームを現地語にローカライズすると 40-120% の売り上げ向上が見られることなど、「携わるタイトルを対象市場で最も喜んでもらう、つまり多く売る」ために行ったこと、集めたデータ、それを踏まえた意思決定の実例を紹介していました。
また、プロデュースやポストモーテム的セッション、たとえば 『Perhaps a time of miracle was at hand: the business & development of #swocery』においても、「我々は◯◯なゲーマーに手に取って欲しかった、だから△△という意思決定をした」といった話がされています (同作は当初 iPad 専用タイトル、後にユニバーサル対応し、35 万本売り上げたスマッシュヒットアドベンチャーゲーム。その独創性とアートスタイルで注目を集めた) 。
ゲームの内容、規模、プラットフォームによってベストプラクティスが変わるのは当然ですが、そういったことを超えた、ユーザーの実情と意思決定を深く結びつける姿勢は、逆にいえばそういったことが 抜け落ちたまま開発が進むことがどれほど分の悪い博打であるかをはっきりと示すものだったように思います。
心理学と科学
今年私が意識的に聴講したテーマが心理学でした。内発的、外発的動機付けのような専門用語が当然のように飛び交っていたのが印象的でしたが、さらに驚くべきはそれらが高いレベルでゲームデザインに織り込まれていたことです。
- Intrinsic and Extrinsic Player Motivation: Implications for Design and Player Retention
- Scott Rigby (Immersyve)
- The 5 Domains of Play: Applying Psychology's Big 5 Motivation Domains to Games
- Jason VandenBerghe (Ubisoft)
昨今「ゲームデザインは科学である」というフレーズはよく聞くようになりましたが、本年のGDCにおける心理学系セッションは、この場合の「科学」の意味を「誰しもが参照し、理解し、応用できるようにまとめられた体系的知識」として消化しきった果てにあるものだった、と感じました。この徹底的なアプローチの仕方はどうして生まれたのでしょう。とある友人ゲームデザイナーの言を借りると、「現世代機の規模では、誰かのカンでは開発コストを正当化できないから」ということなのかもしれません。しかしそれは必ずしもネガティブな、責任のなすりつけではないように感じます。科学はカンと違い、情報、そしてその先にある意思決定を「議論可能な」状態で維持します。具体例を挙げれば、
私は◯◯の仕様はこうした方がいいと思う。なぜなら…
のあとに続くセリフに議論の余地があるということです。
科学+科学じゃない ->より良いゲーム体験を
しかしそのようにゲームをデザインしても、計算づくですべてが面白くなるわけではありません。事実、Naugty Dog社は今年、いかにセオリーを破って面白いゲームを作るか、というテーマで講演しています(『Breaking the Rules of Game Design: When to Go Against Competence, Autonomy and Relatedness』)。
すべては「より良いゲームエクスペリエンスのため」ということ、ということでしょう。
それを開発中から確実なものにしていく手段が、執拗なまでのプロトタイピングであり、フォーカステスティングで、だからこそ本年もこの2つのトピックについて多数のセッションが開かれたのだと思います。
己のビジョンとテスターの声、己の経験と科学的データ。使えるものは何でも使う、というのは陳腐なフレーズですが、どのような道具が使えるのか、その道具に備わる短所と長所は何か?を知ることで、有効な道具を組み合わせることが可能になる。あの場所では、失敗例と成功例が無数に公開されていました。