ARG の研究会を見に行って ARG L10N を妄想してきました

IGDA 日本 SIG-ARG (Alternative Reality Game; 代替現実ゲーム) 主催の研究会に出席してきました。デジタルゲームではないですが、興味があったので。大体の流れや資料については各所に掲載されていると思いますので、当然ながらここでは LYE の感想を中心にまとめていきます。

と、その前に一応 ARG って何よ? という方向けに北京五輪に絡めて世界規模で実施された ARG の Wiki へのリンクを置いておきます。
The Lost Ring wikiJP / ARGとは?

行く前に気になっていたこと

以前少しだけ ARG 関連の翻訳に関わったことがあったのですが、その時は日本語版のターゲット層と、言語的な表現上のニュアンスについて分からないことがたくさんあったんです。そして米国における ARG の盛り上がりについても、不勉強で把握できていなかった。まして日本における当時の ARG シーンなどさっぱり分からず途方に暮れていました。
分からなかったことは大きく分けて 4 つありました*1

  • 米国/日本の ARG シーンはこれまでどんな風で、今はどうなってるの?
  • クライアントが狙うターゲット層はどこ?
  • 日本と米国ではターゲット層にどのような違いがあり、その理由は何?
  • 現実とゲーム設定の線引きをどのレベルで引けばよい?

講義が終わった後、「現実とゲーム設定の線引きをどのレベルで引けばよい?」以外はすごくスッキリした気がします。残った 1 点については未だにちゃんと理解できているかどうか分からないのですが、そのへんは実際に参加することで今後つかんでいけたらいいなと思っています。

モノの質感

ニコルソン (ARG 制作集団) 代表の今仁さんが手がけられた、渋谷を舞台にしたプロモーション型の ARG「Future Player」を実際の流れに沿ってお話されている時、「特定のコインしか受け付けないガチャガチャを渋谷に設置」し、プレイヤーが入手したコインを「入れて回す」という部分で (気のせいかもしれませんが) 今仁さんの目ヂカラがものすごく上がっていたように感じました。それから今仁さんの目ヂカラがどこで上がるか注視していたんですが (不真面目な受講態度)、キーとなるポイントが一個あるんじゃないかなと気付きました。
"物理的に存在する「モノの質感」がゲームへの没入感を大幅に押し上げる"
ってところです。たぶん、モノを見たり触れたりすることで、想像力が現実とストーリーの間にブリッジを掛けるパワーが跳ね上がるってことじゃないかと。

Future Player の例だと、

  • モノ:フライヤー/ガチャガチャ/CDR
  • 想像:よく知る場所 (渋谷) にあるなじみのあるモノの手触り + ARG ストーリーのレイヤー = 俺ってゲーム世界に生きてる! 暮らしてる! というトリップ感

という風に。

 そして思ったのです。
トリップ感は、1) 手触りのあるモノがどれだけの "フツーさ" を纏っているか、そしてそれがどれほど強く 2) ストーリーと現実を結びつけるか、に左右される!
 だから
ゲームが開催される国や地域ごとに "モノのフツー度" は結構違うし、纏っている雰囲気も変わる。
 つまり
暮らしている人にしか現地で有効な "モノの手触り" は見極められないんじゃないか?

とかひとりで考えていました。

ローカライズとからめて妄想

複数の国/文化/言語/をまたいで展開する ARG をローカライズするとしたら (そんなプロジェクトはまあないですが『The Lost Ring』的なモノが今後ガンガン出てくると妄想したら) 、"モノの選定" や "解くべき謎" を決定する上で現地の担当者を最初から巻き込んで、総合ディレクターが創った案に変更や改良の提案を挙げられる体制がきっといるんだろう!、とかひとりで妄想していました。
また Future Player の場合、今仁さんは企画を 2 週間で立てたとのことでした。これに限らず ARG は比較的 (SW と比較するなという話ですが) ハイスピードで企画が進むそうなので、現地の空気を吸っている人間からの意見をいかに負荷なく取り入れられるかというのは地味ながらも大事なポイントっぽいなあとか。

ARG とはストーリーテリングの手法であるという名前の目ヂカラビーム

今仁さんは最後のスピーチでも目ヂカラが上がってました。そのときのフレーズが 2 つ。
「ARG に欠かせないものは世界観とストーリー」、「ARG はストーリーテリングの手法」

個人的に、これでスッと納得しました。なるほど、ストーリーテリングか、と。

日米の違い

(記憶が正しければ) 八重尾さん曰く、ARG は米国ではかなり普及している (映画 Ai のプロモなど) が、日本は米国の形を追いかけるのではなく、「日本人にあった形へのローカライズが大事」、と仰ってました。そのヒントとして挙がったのが以下の 2 つ。

  • 参加の敷居を下げる (進め方を分かりやすく、飛び込みやすくする)
    • まだ ARG が浸透していない、日本人の傾向として「知らないこと=怖い」がある
    • "オーディエンス" を最大化する努力が必要
  • コンテンツ力で勝負する
    • 漫画やアニメなどのキャラクターのパワーを活かす (名探偵コナンの例もある!)
    • 漫画/アニメキャラクターはユーザーとの親和性が高い!
    • 版権の問題はあるよ

感想

来て大正解でした! ARG 自体の持つ可能性が非常に大きいことがよく理解できたことも収穫でしたが、ここでもデジタルゲームと同じく「日米の国民性、嗜好の違い」があることを知れたのも良かったです。

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デジタルゲームの教科書の ARG の章は、包括的で入門者にも優しく、とてもためになりました。
もし興味を持った方がいたら是非! 他の章も読み応え抜群です。
私は門外漢みたいなものなので専門職の人がどう評価するかは分かりませんが、自分の職種以外のことを包括的にチェックできる機会というのは少ないと思うので、マジオススメです。

*1:これがどうしても掴めず、本当に手探りで作業した記憶があったので、"もし" 次があったら適切に対応したいと思ったのが参加の直接的な動機だったのかもしれません