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IDA-10 氏2万字インタビュー

Interview by LYE

インタビューについて

  • LYE が Twitter 経由で id:IDA-10 氏に無理やりお願いしたインタビューです。
  • 当初のテーマは「英語とゲーム開発」でしたが、最終的には「IDA-10 氏にアメリカ、コミュニケーション、ゲーム開発について聞いてみた」的になりました。
  • 全部で 2 時間分、ほぼ全部ですが極めて個人的な情報については外してあります。
  • 登場する社名や製品名のイニシャルはオリジナルを暗示するものではありませんので、深読みはご遠慮ください。
  • LYE の発言は LYE の、IDA-10 さんの発言は IDA-10 さんの個人的見解を述べたものであり、特定の企業や団体などの意見ではありません。ご理解ください。
  • LYE は生まれて初めて他人にインタビューしたので受け答えがもう本当にろくでもないです。そのあたりについてのダメ出しは LYE まで直接お願いします。直せそうなら直しますが基本ほめられて伸びる子です。

それでは本編をどうぞ。

イントロダクション、渡米前、渡米直後
  • LYE ちょっと最初にテーマを絞りすぎてしまって、「英語と」ってしてしまったんですけど、他の人から挙げてもらった質問が「英語!」というより「米国と日本のゲーム業界」という感じのものが多くて…
  • IDA-10 気になさらないなら、何でもざっくばらんに話せばいいかなと思ってます。
  • LYE ありがとうございます、そうできればと思ってます。よろしくお願いします。
  • LYE では自分で挙げてしまったので英語について…IDA-10 さんって、渡米する前の英語力ってどんな感じだったんですか?
  • IDA-10 実は特別、(英語を) 日常では使ったことはなくて、TOEFL とかTOEIC も受けたことがなくって、未知数だったんですよ。
  • LYE 仕事柄…みたいなことも?
  • IDA-10 仕事柄というか、洋ゲー遊ぶときに英語見るくらいで、基本的に読んだりってことはしなくて。しいて言えば、洋楽聞いていたくらいです。 あと受験で勉強したとか。実際こっちに来るまでどのくらいしゃべれるのかは分からなくて。
  • LYE なるほど。では行くと決めてから勉強を始めた、という感じですか?
  • IDA-10 実は行くと決めてからは、何もかもあっという間に物事が進んでしまって勉強どころではありませんでした。僕が最初に行ったときは駐在員として行ったんですよ。元々日本の X 社にいて、そこがアメリカにスタジオを持っていたんで、募集はかかっていなかったんだけど、行きたい行きたい!って言って、行けることになったんです。なので最初は駐在員として渡米しました。
  • LYE そうだったんですか。渡米するぞ、ってなったときには、素敵な奥様もお子さんもいらしたんですよね?
  • IDA-10 はい (笑)、子供も二人いました。
  • LYE (家族を連れてというのは) 結構大変だったんじゃないかなと思うのですが、差し支えのない程度にお話伺えますか?
  • IDA-10 妻は元々仕事自体に理解がある人だったので、渡米するってなったときも、新しい可能性を拡げるってことで理解があって。なのでアメリカに行くっていうチャレンジを認めてくれて。
  • LYE (アメリカに) 住むことについても…?
  • IDA-10 チャレンジ自体は問題なかったんですが、引越しすることについては…別問題で (苦笑)。いろいろ作業が発生するじゃないですか。すぐ来てくれと言われて最初は僕一人で出発だったんですよ。家族はその3ヶ月後に呼び寄せることになっていて、だから引越の準備とかも全部 (妻に) 任せちゃってて。それは大変だったと思います。理想を言えば、僕も引越の準備をしたかったな、と。もう少し余裕を持ちたかったなと。
  • IDA-10 あとはもう一つ教育の問題があって。子どもがもうすぐ小学校に入る歳だったので、どういう小学校に入れたいかって色々リサーチしたら、結果的に入れたいところが入学試験受けないとだめ、っていうところばかりで。うちの子供は絵とピアノが好きなので、そういう方面を伸ばせる学校を、となるとどうしても私立で受験が必要だったんですよ。そこで、じゃあ受験勉強をさせよう、というのも僕のポリシーに反するので。小学校受験って特殊なことじゃないですか。だったら、アメリカで、色んな人達の中に放り込んで、色々な文化を学ぶというほうが魅力的かなと思って。
  • LYE なるほど…。奥さんも英語が特にすごく得意というわけではなかったんですか?
  • IDA-10 うーん、喋れないことはないですが、ベイエリアでは日本語だけでも生活できるので、あんまり (英語は) 喋ってないです。
  • LYE そうなんですか! 日本人コミュニティがある、というような?
  • IDA-10 そうですね、日本人の友達もできたし、スーパーも日本のがいっぱいあるし。
  • LYE 納豆が買えたりとか、そういう感じですか?
  • IDA-10 そうそう、基本的に何でも揃うんですよ。ほぼ日本語だけで生活できるので。各種手続きとか色んなめんどくさいことを別にして、普通に生活するだけなら日本語だけでも大丈夫です。
  • LYE 僕は昔、豪州に住んでたことがあったんですけど、英語全然しゃべれなくてもスーパーマーケットとか普通に使えますもんね。
  • IDA-10 今はさらに 無人のチェックアウトとかもいっぱいあるんで。
  • LYE そうなんですか!?
  • IDA-10 自分でバーコードをスキャンさせて、袋に入れて精算済ませるやつがあるんで。
  • LYE なるほど。しかし…チャレンジだと理解してくれたというのは分かるんですけども、その、いきなり言語も文化も違うところに行くというのはかなり大きなジャンプじゃないですか。
  • IDA-10 そうですよねー。でも僕と結婚したくらいなんで、その辺は大丈夫だったのかな、分からないけど。(IDA-10 さんの)酔狂なことに慣れていると言うか (笑)。
  • LYE 包みこむような愛が。
  • IDA-10 (笑) だといいですね。それはいい発想です (笑)。
  • LYE 奥さんといえば、色んな方から奥さんの肋骨について心配するコメントを預かってきたんですが。
  • IDA-10 それが疲労骨折みたいなんです。3人目、4人目って続けて赤ちゃんを育てているんで、骨が弱くなっていたんじゃないかと。
  • LYE じゃあボクシングはしていないんですね、7 番と 8 番。大爆笑でしたよ (笑)。
  • IDA-10 (笑) 「はじめの一歩」の千堂が好きなんですよ。ボクシングはしてないです。僕もびっくりしました。ゲームはあんまりやらないんですけどね。
  • IDA-10 でも僕に、なんでゲーム会社に入らないの?って言って背中を押してくれたのは奥さんなんですよ。
  • LYE あ、出会った頃はまだ大学生だったんですよね。
  • IDA-10 そうです、在学中に知りあって、新卒になるときには子どもが 2 歳になるかならないかだったので、まだ新米パパじゃないですか。それもあって、何とか安定した収入をと思っていたんですが、ゲーム会社っていかにも安定していないっぽいじゃないですか。だからゲーム会社でゲーム作るって、最初はただの夢だったんです。働けたらいいな、くらいで。でも、あなた (IDA-10 さん) にそんな普通の仕事ができるはずがないだろう、って断定して、背中を押してくれたのが奥さん。あれは非常にありがたかったです。本当に。たぶん僕より僕のことを知っているところもあるのかも。今となっては逆に自分がゲーム会社以外で働けるなんて夢にも思えません。
現地での転職
  • LYE それで、X 社に入社されてから、何年か経って米国法人に異動になったんですよね?
  • IDA-10 転勤先のX 社の米国法人では 3 年くらいかな? そこでプロジェクトが 2 個終わったくらいの頃に、諸事情で会社から日本に戻ってこいって言われて、本当は帰らなくちゃいけなかったんだけど、帰りたくなくて。
  • LYE じゃあ帰国が決まってから、ここ (米国) に残れる道を探そう、といって新しい職場を探し始めたんですか?
  • IDA-10 そうです。それもまた急な話だったんですが。あと数ヶ月後に全員日本に帰ってねって言われて、えっ!?って感じでしたから。そんな感じで探し始めて…2 週間だったかな? Y 社 (現在の会社) の知り合いから面接受けられるよって連絡もらって。最初だったから軽い気持ちで受けに行ったんですよ、カフェかなんかで「やあ調子どう?」みたいな感じで話すのかな、と思って。そしたら行ったら朝 10 時からから夕方まで 30 分刻みで面接ぶっ続けで、いきなり本気面接でした。
  • LYE じゃあ特に持ち込み企画!という感じでなく、人柄を見るような感じだったんですか?
  • IDA-10 いえ、何かあるなら一応持ってきてと言われていたから色々持っていきました。
  • LYE おお、ということはその時点で英語で企画書バンバン書いちゃうような感じですか?
  • IDA-10 それは頑張って作ったんです (笑)。X 社は基本的に日本人ばっかりだったんですけど、英語ネイティブ 2、3 人いたので間違っていないかどうか見てもらって、プレゼンを 4 枚くらいにまとめました。
  • LYE それは持ち込み企画みたいな感じでですか?
  • IDA-10 そんな大袈裟なものでは…まあ一応そうですけど、自分はこういう物を書いて自分を表現できますよ、こういう物を書いて、考えをまとめられて、そういうのをアピールできますよという。いっこはダウンロードコンテンツで、もう一本はフルサイズタイトルの案を持って行きました。
  • LYE で、それをプレゼンというか紹介しながら一日みっちり面接ですか。
  • IDA-10 はい。あとは、自分の仕事のフローを表現したプレゼンテーションを持って行きました。自分は、デザイナー枠(日本でいう企画職)での応募だったので、レベルデザイナーとしての自分のスキルをアピールするものとして用意しました。最低でも3Dモデリングソフトが使えて、スクリプト言語ができなければ雇われないんで、こっちだとデザイナーはそれが普通なんで、そこを押しつつ、架空のレベルを任されたという設定で、原案書から具体的なレベルの設計、チューニングからフィニッシュまで、自分なりのメソッドをまとめました。
  • LYE 日本から出て外でガリガリ進んでいける人って、自分の考え方というか、考えて実行する時の方法みたいなものを、現地的な方法に合わせられるかどうか、向こうが何を求めているのかを理解した上で、その人達が納得するようなものを作れるかどうか (が大事だと思うんですが)、理解するのと実際にできるのとは違うと思うんですよ。そのあたり、IDA-10 さんのそれはこれまでの人生で備わったものだったんですかね、きっと (自分で言っておいてアレですが質問がぼやあああっとしてて何が言いたのか分かりません、すみません)。
  • IDA-10 そう…かもしれないですね、僕の仕事では、どうやって自分の企画を通すかが大事なので。デザイナーの仕事というのは別にタイトルに限らなくって、自分が考えたおもしろレベルとかボスのアイデアとか…
  • LYE ゲームの要素レベルで、ってことですか。
  • IDA-10 そうですね、担当レベルでですね。そこでは、どうやったら自分のアイデアが一番よく見えるかばっかり考えてました。すんげえ良いネタを思いついたのに、うまく伝わらなくて潰れちゃってメチャメチャ悔しかったことが新人の頃にあって。だから、アイデアを思いつくだけじゃダメだなと。それが最高に面白く見えて、みんなに伝わらないと意味ないや、と。なんで、アメリカでの面接はそれを自分に適用させた感じです。どうやれば自分が一番よく見えるか、自分のもってる魅力を伝えられるか、デザイナーとしてどれだけスキルがあるってアピールできるか考えて企画書だったり、自分の仕事の紹介だったりを作りました。単純に英語力に自信がなかったということもあるんですけどね (笑) 。モノがあると俄然しゃべりやすくなるんで、単語が出てこなくても、こんな感じって絵を指させば通じるし。それもモノを用意していった大きな理由だったんですけど。本当は自分が関わったレベルをビデオキャプチャーして、プロモーションビデオみたいなのを作りたかったんですが、時間がなくて叶いませんでした。
  • LYE お話を伺っていると、自分や自分の企画を表現することを X 社の時代からずっとやっていたので得意だったんですかね。
  • IDA-10 そうですねー、客観的にどう見えるかは分からないですけど、元々俺が俺がっていう性格なので (笑)
  • LYE それ大事な気がするんですよねー
  • IDA-10 ただ、ほんとに俺が俺がだけだといろいろ難しいので、具体的に自分のアイデアをどうやって一番良く見せるかの一例ですが、自分のアイデアがみんなの得になって、プロジェクト全体の質が上がる、ひいては会社の利益になるって言えた方が説得力が増すんで、そこを一応気をつけました。
  • IDA-10 単純に、それが明確だと企画が通りやすいってことでもあるんですが、これって自分の担当箇所を良くする方法でもあるんですね。自分のアイデアを実現することで、みんなも良い評価を受けるってことを強調して、みんなをノセるんです。プログラマもアーティストも「面白い、やろう!」ってノってくれると良いモノができる。「このネタ、ムチャに聞こえますけど、実現したらプログラマとしての評価も上がりまくりますよ!」とか、「この新しい表現はXXさんにぴったりだし、今世代機でこの画作りって見たことないです!」とか。
  • IDA-10 何の話でしたっけ?えーと、つまり、そうです。たぶん、仕事を通じて自分のやりたいことと、みんなのやりたいことのバランス調整がうまくなったと思います。誰も俺の妄想を実現してくれるために働いてるわけじゃないですから。実現するとどれだけその人の評価が上がるのか、どういう風にプロジェクトの利益になるのかって重要だと思います。
  • LYE それは日本でもそうだったしアメリカでもそうだ、ということですか。
  • IDA-10 はい、変わらないと思います。特にアメリカだと実績あげたい人たちで溢れてるので。でも、やっぱりモノをちゃんと持っていくということは、そうですね、もともとは英語だけで相手を説得する自信がないということで、分かりやすくなるようにモノを用意していこうというのがきっかけだったんですけども、あーこれ日本でももっと徹底すればよかったなとは思いました。けっこう口先だけで仕事を進めていたこともあったんで。たとえ言葉が不自由なく通じても、具体的に把握できるほうがいいです、きっと。紙つくった資料でも、理想を言えばプロトタイプみたいな、モノがあったほうがよかったなと。
アドバイス
  • LYE 仮に「自分もアメリカでやってみたいんです」という人がいたら、今の IDA-10 さんはどんなアドバイスをしますか?
  • IDA-10 働く理由を明確に自分の中に持てると、判断や意思決定がしやすいのでおすすめです。僕だったら理由のひとつが家族との時間を持てるかということでした。アメリカの企業だと、これは驚いたことでもあったんですけど、家族第一が基本なんですよね。それは日本では、少なくとも僕がいたときは違った。他の会社は知らないですけれど。例えば家族のために休む、家族のために遅刻、早退するのが当たり前なんで。だから仕事の上でこれを今すぐやらなきゃいけないことと家族があったら、迷いなく家族を取る。常にそういうところがクリアなので。僕の場合は、それが特に海外に来るときは一番重要でした。
  • LYE アメリカに行きたいという人の動機は、今北米が技術的にリードしているから自分の力を試したいとか、新しい技術を吸収したい、とかが多いんじゃないかと思うんですが、理由が「それだけ」だとちょっと違うんですかね? それが根っこの根っこまでそれだけで動いている人だったらそれだけでもイケるんでしょうか? すみません抽象的な質問ですが。
  • IDA-10 人によると思うけれど、自分だったら明確なゴールを設けると思います。抽象的なゴールだと迷うことになるので。たとえば技術を吸収して、それから会社を興して自分のゲーム作るとか。そういう風なら、アメリカのゲーム会社がゲームを出すときの仕組みを勉強するだろうし、そういう方向で仕事をするだろうし。最高のレベルデザインを目指すなら、そこが一番進んでいる会社を選ぶほうがいいでしょうし。
  • LYE 漠然とした大きな目標よりも具体的な目標を持った方が良いと。
  • IDA-10 そうだと思います。これはちょっと大きな声では言えないんですけど、入社して2年目くらいで僕が本当に楽しいと気づいたことって、デザインそのものよりも、みんなと協力しあって、完成させる過程そのものだったんです。だから今すごく楽しいんですよね、リードデザイナーでクリエイティブディレクターだから。僕が今一番しなきゃいけないことって、ゲームのビジョンを持って、みんなでなんとかやりくりしながら、完成に導くことなんですね。それから、働いているみんなをよく見てて、「この要素が必要なんだけど誰が一番適任だろう」って言って、誰それを連れてくる、とか。常にこう、触媒になるというか。
  • LYE 生き物としてゲームが育っていく上で、コラボレーションだとかケミストリーみたいなものをうまく引き起こしていくということですか。
  • IDA-10 ああ、見事にそんな感じです。一番僕が大切にしたいなと思っているのは --まだ僕はこのポジションで 2 年くらいしか働いてないですけども-- 「理屈じゃない部分が大事」ってことなんです。みんなのモチベーションだったり、ちょっとした会話だったり、何でゲームが良くなるかっていうのは誰にも予想できない。僕が X 社にいたときに担当していたタイトルの時でも、何かしらこう、神が降りてくる瞬間っていうのがあって。ゲームも面白くなるし、スタッフも盛り上がる。でもそれはゲームごとに違うので全く予想がつかない。今やってるプロジェクトでもそういう瞬間が何度か来たので、今度のもなんとか大丈夫かなと僕は思っているんですけど。
  • LYE じゃあ今はもうアドレナリンとかドーパミンとか出まくりですね (笑)
  • IDA-10 そうですね、一番盛り上がってる感じです。その盛り上がりが、皆に伝波するのがすごく嬉しいっていう。僕が思いついたアイデアをコアにして、これこれこうしていけば、きっと「世界が驚くぞ」っていう。そうすると僕のやる気というか興奮が徐々に伝わり出して、そうしてそのゲームのスタッフロールに俺の名前を載せたい! って思わせていくみたいな。面白いと言うか、充実してる感じがします。
  • LYE その喜びっていうのは、ある程度までは日本でわかっていたけれど、米国に渡って、経験が長くなるにつれてどんどんハッキリしてきたという感じなんですかね。
  • IDA-10 そうですね、さっきも触れましたけど、新人の頃はいつか自分のゲーム作りたいっていうのが強くあったんです。でも、何が一番今自分を突き動かしているかというと、「みんなでものづくりをしてて、その活動をいい方向に加速させていく瞬間」がすごくいいんだって、一番楽しいんだって思ったんです。なんでその、僕がアメリカに来るにあたっての動機のひとつはは、いろんな人種、いろんな経験者たちを相手に、同じことをできるのか、しかも英語で、というのがあって。
  • LYE そうして何年も米国で暮らして、もうあまり不自由ないくらいまで英語が使えるようになっているじゃないですか、それで…
  • IDA-10 死なない程度ですけどね (笑)
  • LYE 死なない程度っていう人が一番タフなんだっていうのが僕の持論なんですけども (笑)。死なない程度に英語しゃべれるよっていう人が一番ツエーっていう (笑)。それで、今まで伺ったみたいに、モチベーションやビジョンみたいなものがあるからこそ、英語学習に身が入った部分というのはあるんじゃないかなと思うんですけれども。あ、学習と言っていいのかどうか分からないですけども。こう、苦にならないというか、俺はこれがしたい! だけど、手段として英語が必要だから、とりあえずいちばん効果的なものをガンガン吸収していくみたいなところって結構あると思うんですけれども、そのへんも交えて、そちらで働くようになってから、どうやって「英語を身につけていったのか」みたいな話を伺ってみたいんですけれども。
  • IDA-10 明らかに上がったのは、英語力と言うよりも、会話術というかそういうものでしたね。どうしたら自分の考えが伝わるシチュエーションに持っていけるか、っていう。そこが一番大きいと思います。単語学習とか、やってないんです実は。あんまり威張れる話じゃないんですけども。単純にめんどくさがりだってのもあるんですが。強いて上達したところというと、例えば、同じ英語力の人でも、シチュエーションによって通じることと通じないことがあると思うんですよ。
  • LYE たとえば、突飛なことを説明したいときに、いきなり 1 センテンスまたはパラグラフでまとめて説明しようとするんじゃなくて、前提条件をシンプルな表現でひとつ、ふたつと積み重ねていって、向こうが次こういう事言うのかな? という風に想像の幅を絞り込んだ後に話すとか、そういうことですか?
  • IDA-10 そうですね、それももちろんひとつありますし、あとはさっきみたいにモノを用意すること、それから絵を描く。僕はプレゼンの時に絵抜きではたぶん半分も通じなくなる。
  • IDA-10 あとは自分の土俵に相手を連れてくることですかね。自分のアイデアの範囲内で話せば、相手の言動やリアクションも予想の範囲内になる。でも相手の話を聞き始めちゃうと、相手のアイデアは相手の中で湧き出ているものだから文脈にない可能性が高くって、とたんに難しくなっちゃう。なのであんまり人の話を聞かないで、自分のアイデアで話すようにします。やっぱり何を一番伝えたいのかが真ん中にあると楽なんですよね。
  • LYE 仕事まわりでは資料を用意したりしてものすごく濃いコミュニケーションを取っていくということだったんですけども、職場外、例えば飲みの席とか日常生活ではどうですか? 今までお話伺った感じだと物怖じするタイプの方ではないなと思ったんですが。
  • IDA-10 こっちから話しかけますね。「最近どんなゲームやってる?」とか言いますね。そうすると自然と (会話の) 枠がゲームになるんで話しやすいし、向こうが遊んでるゲームはたいてい僕も遊んでるんで。やっぱりこう、自分ワールドに引き込む (笑)。だから自分から話しかける分には不自由ないです。でも僕以外の人たちがテレビ番組について話しているときとか、分からないです。でも逆の立場に置き換えてみると、たとえば僕らがマニアックなアニメや漫画の話をしているところ、そう、千堂がアバラもっていかれたとかそういうことを話してたら、向こうは分からないじゃないですか (笑)。
  • LYE 確かに (笑)。
  • IDA-10 そういう部分はあるんで、それはもう諦めてます。何もしてない。わからないですよ。
  • LYE そういう分からないことに恐怖するタイプとしないタイプっていると思うんですよ。日本語にすると「いい加減」になっちゃうと思うんですけど、コミュニケーションを考える上で結構大事なことなんじゃないかと最近思うんですよ。
  • IDA-10 うちの奥さんも真面目で、(分からないことがあるのが) たぶん嫌なんですよ。日ごろわかんないわかんないって言うんですけど、単語レベルでは結構拾えてて、僕とあんまり変わらないです。僕は単語さえ拾えれば、自分の中でまとめておいて、あとで確認のために「こういう意味だった?」って聞いて、分かったことにしちゃうんですけど。
  • LYE 聞き取れない自分が悪いんだって思っちゃう人は結構多いと思うんですが、そこも大事なとこっぽいですね。
  • IDA-10 ええ、そんなこと全然思ってないです。
  • LYE それがいいと思います。外国語なわけですし、そのぐらいの姿勢が必要ですよね。きっと。
  • IDA-10 僕の場合は日本にいた時から人の話を聞かないって怒られてたんで (笑)。あんまり変わらないです。
文化の違い
  • LYE (笑) 話はかわりますが、日米の文化の差みたいなところで、スゲーなって思ったことありますか? 仕事離れたところとかでも。
  • IDA-10 携帯電話の話なんですけど、カリフォルニアは車運転しながら携帯電話で通話してると罰金取られるんですよ。で、それもあってかブルートゥース接続のヘッドセットつけてる人が多いんですけど、街中ででかい声だして独り言しゃべってるように見えて。びっくりしました。みんな独り言言ってるんですけど、別にキ◯ガイなわけではなくて、携帯で通話してるんです。
  • LYE それは怖いかもしれない。でも慣れそうですね?
  • IDA-10 と見せかけて本当につけてない人で話してる人もいますが (笑)。
  • LYE それは怖い (笑)。
  • IDA-10 あと来るまで、たぶん見たことなかったし、知らなかったんですが、ピースサイン作って指をニョキニョキする動作をやる人がたくさんいるんです。あれは、最近知ったんですけど、「Quote Quote (引用、引用)」って、あのピースは引用符のジェスチャーらしいんです。で、なんか「いわゆる」って意味で使うんですよね。ゲーム作ってるときに、ここで「いわゆる」QTE を入れようね、とかそういう感じで。でもそのポーズ変じゃないですか。僕から見るとふざけているようにしか見えない (笑)。さらに両手でやる人とかもいるんで、ミーティング中は今でも笑いをこらえるのに必死です。
  • LYE そうなんですかー! ニョキニョキ。
  • LYE 食事とか和食なんですよね?
  • IDA-10 家で食べる分にはほぼ和食ですね、外だと、ベイエリアだからかもしれないですけど意外とおいしい店が多くて。そばにインドカレーとか日本食レストランとかあって。人種がいっぱいいるぶん色んな料理が食べられます。
  • LYE 自分で挙げた質問リストの中に、「こっちにきたらのほうが生きやすい」みたいな心構えあったら一発お願いします。ってのがあったんですが、今までお話聞いていると、元々そういうふうに (こちらで適応する) スタイルで生きてこられたように感じました。アメリカで生きていきやすいタイプのマインドセットをもともとお持ちだったのかな、と。そのあたり自分ではどう思われますか? 空気があってる、みたいなところありますか?
  • IDA-10 いい加減なところが合ってる、というか (笑)。いえ、意外と人間て変わらないな、という。同じ文化圏と言うか、大きく言えば西洋文化の中で生きてるわけじゃないですか。なので、結果的に大きな違いというのは --おもしろいと思うことはいっぱいありますけど-- 僕は感じないです。白人とか黒人とか関係ないし。みんな怒るし、みんな喜ぶし、そういうのは一緒だなと。それは仕事の上だからかもしれないですけどね。奥さんはまた違うかもしれないですけど、少なくともゲーム会社で働いている分には、もうみんな生きてるなという。みんなおんなじ人間なんだなあと。特に仕事に関して言えば、ゲーム作るって共通の目標がある分、ますます不自由ないです。
  • LYE いい意味で、変な気負いとかコンプレックスがないというか。
  • IDA-10 そうそうそう。持つ必要がないというか、持つ根拠がない。それもベイエリアだからかな。日本人、中国人、インド人、メキシコ人。みんなが外人に慣れてる。地理的に近くてもシアトルとかだとまた雰囲気も違うみたいですけど、ベイエリアにおいては、マイノリティという概念が薄いと思います。白人の方がマイノリティだったりするし。なので英語だから、白人だからって何かあるわけでもないです。英語通じない店いっぱいありますし。
  • IDA-10 あ、でも、コミュニケーションについてひとつ、理解されていない可能性を前提に喋るってのはあります。伝わってなくても後でショックを受けないために。分かったような雰囲気で別れて後で全然分かってなかったことが分かって愕然とした、ってことがあったんです。でも僕も難しい英語わかってるふりしてフンフン言って全然分かってなかったりするし、よく思い返してみると日本ですらそうだったなあって (笑)。まあ英語だと余計ショックでかい感じがするし、たぶん英語のほうが起きやすいだけで、根本的には変わらないってことですよね。そういうことがあって以来、何気なく会話の中で本当に分かってるかなっていうのを確認するようになりました。大丈夫?って聞いてあやしいなと思ったときは一回まとめましょうか、と聞いて理解してくれるよう言い直すとか。
  • LYE 絶対外せないポイントについては、そういう風に確認していく、と。
  • IDA-10 ある仕事について、俺は終わったと思ってるけどあっちは全然終わっていないと思ってることがないように、俺が終わってると思ったら「これ終わってるよね?いいよね」って確認するんです。
  • LYE それって言語とかじゃなくてコミュニケーション能力ってことですよね
  • IDA-10 ですねー。
預かってきた質問
  • LYE さてさて、#h8ctrl でおなじみの @kiyosick さんから「ベイエリアにある店員的におもしろいゲーム屋さんありますか」って質問をもらってきたんですけど、何かありますか?
  • IDA-10 サンノゼの Gamespot にマリオのタトゥー入れてる人がいるんですけど、その人めちゃめちゃ太ってて、すげー幅広マリオになってるんですよ。デブマリオ。ニューキャラ。
  • LYE まさか答えが返ってくるとは思ってなかったです (笑)
  • IDA-10 もう "元" マリオなんですよ。あー、昔はマリオだったんだなーって分かるんですよ。(刺青) 入れた後に太っちゃったんでしょうね。すごいパチモノ感。
  • LYE (大笑)
  • IDA-10 あとゲームショップに限らなければ、本屋にですね…ガスマスクをつけた店員がいて。女性なんですけどね。顔の半分以上覆う、ナウシカみたいな。
  • LYE だんだんイメージできなくなってきましたよ、ベイエリア (笑)
  • IDA-10 一番最初に見たときはびっくりしましたよ。普通いないですからね、そういう人。しかも店員だし。
  • LYE すげーなー、アメリカすげーなー (笑)
  • LYE では次の預かってきた質問を。 @OK_as さんから。「海外から見た日本市場の魅力ってどのようなものがありますか?」というのをいただいたんですが。
  • IDA-10 基本的に…今の、今の環境で言えば…ほぼ無いです。もう…誰も相手にしてない。市場的に、売れないのがずっと証明され続けているんで。全世界的に売れても日本では売れないので。
  • LYE 北米とヨーロッパで同時に売れるタイトルは結構ありますもんね。
  • IDA-10 その、マーケットのしくみがどうなっているのかは分からないですけども、アメリカとヨーロッパで売れて回収できればそれで良いし、同じ言語圏にいる彼らにはそれが一番自然だと思います。
  • LYE なるほど
  • LYE 僕が以前翻訳会社で働いていたときに、多言語同時展開のプロジェクトで日本語だけファイルが支給されなかったことがあって、日本だけファイル来てないんだけど!って言ったら、向こうから「ごめん日本でもそのゲーム機が売られてるの忘れてた」って言われたことがあって (笑)。あ、それぐらいなんだなと思ったことがあります。
  • LYE では @Nao_U さんからの質問を。「日本と海外のゲーム会社で働いてみて、一番ここが違う! と驚いたこと、良いことでも悪いことでも何かしら大きな衝撃を受けたことがあったら教えてください」
  • IDA-10 開発初期に関してですけど、世界観や設定からゲーム開発が始まることがあるというのが、一番驚きました。日本にいたときは、まず「どんな遊び/ルールがあるか」が最初で絵は二の次なんですよ。どんな仕組みがおもしろいのか、を最初に決めるんです。絵からゲームを作るって言うことは忌み嫌われてたんです、絵とかストーリーは二の次だ、と。特に僕のいた職場はそうでした。
  • IDA-10 でも、こっちでしばらくゲーム開発の立ち上げをみていると、世界観をつくるところから始まってるプロジェクトがけっこうあって、しかもそれが結果的に100万本以上売れてたりするんです。
  • IDA-10 でも僕は、自分の性癖を「構造病」って呼ぶくらい、ゲームの構造にどんな面白さがあるかとか、ゲームデザインの文脈上どんな発明があるのかとか、そういうことにすごくこだわっていたんで、最初はものすごい抵抗がありました。
  • LYE 僕は開発について素人なので、素人目線からのお話になってしまうんですが、その方が優れている点って、ユーザーエクスペリエンスの作り込みが、最初からどういうゲームになるか決まっているから作りこみやすいのかなと思ったりするんですけど、そういうことってあるんですかね?
  • IDA-10 そうだと思います。いわゆるシューターを開発しようというときに、品質管理の観点から言うと、シューティング部分はリスクが低いんです。もう鉄砲で的を撃ってりゃ面白いに決まってるだろうと。しかも、それ用のエンジンもいっぱい売ってるし、いろんな面白いゲームもあってリファレンスも充実してるし。とある開発スタジオの話で、過去の仕事で「シューター部分はXX(有名FPS)をなるべくパクっておいて」って指示もらったことがあるとか言ってました。
  • IDA-10 で、じゃあどこが難しいのか、リスクが高いのかっていうと、世界観・設定なんです。だからここにリソースを注ぎ込むことから開発が始まる。マーケティングリサーチとか、コンセプトアートとか、ストーリーボードとか、いろんな映画から、ゲームのイメージにあうシーンをつまんで編集したイメージビデオつくったりとか、さらに進んでプロトタイプとかつくって、イケてる世界観を探るんです。どんな世界で人撃つのがユーザーは楽しいのか、エキサイティングなのかって。
  • LYE 没入感。
  • LYE それはシューターの場合、「シューターは売れる」というのがあるからそういう風になっていったんですかね。
  • IDA-10 それはそう思いますね、でもいつか必ずパラダイムシフトが来て、シューターが売れなくなる時代が来ると思うので、今それに胡座をかいているところは多分ダメになると思いますけど。
  • IDA-10 その世界観を探すっていうは、何が元になっているかというと、ユーザーがどんなクールな体験をできるのかっていうところからスタートしてるんです。僕の見たことがある環境は多くないのでどこまで一般化できるかわかりませんけど、今働いているところでも、知っている他のスタジオでも、常に「このシーンで何をしたらユーザーが一番喜ぶのか」っていうのが一番最初にくるんです。そういう意味でもストーリーボードとかは重要です。「こんな面白体験できるぜ!」っていうのがまずあって、たまにコミックブック書いたり、そこらへんまで行っちゃう。「このゲームを遊ぶとこういう体験ができるんだ」っていうのありきです。それに対して「じゃあどういうルールなの?」って訊くと、「それはまあ、いいじゃない、こういう体験ができるんだよ」みたいな返事が返ってきたり。
  • IDA-10 日本にいた頃は、やっぱり「ゲーム性ありきでゲームを作る」って考えが根強かったです。でも、僕は今、「ゲーム性」っていう言葉をぜんぜん使えなくなってしまったんですよ。言葉としてうまく機能ないんです、僕の中で。今のゲームの面白さを考えたときに「ゲーム性」って単語ではそれを表わしてないなと。やっぱりもっと「体験」っていうことに近づいていると思います。
  • IDA-10 いわゆるゲーム性、ルールだったりパターンだったりを重んじるよりも、「ユーザーはどういう体験をするんだ?」ていうのが無意識に重要視されている感じだと思います。誰もそんなこと言わないけど、みんな普通にそれに向かって動いているっていう。
  • LYE それはもう、チーム全体というか、オフィス全体が…
  • IDA-10 たぶんそうです。チーム全体が。逆にそこ (「体験」のじゃまになるもの) を潰しきれずにいると突っ込まれる。「え、全然 Boring」って。何でって聞くと、しっかりとしたルールに基づいてゲームが動いても、レベルデザインとして強烈な体験がないから、と。強烈な体験はゲーム全体のうちこことこことこことそこにある、そしてその間をつなぐ部分は通常のゲームプレイといわれるものが入る。それがあんまり長いと、ユーザーは退屈と感じると。
  • LYE 刺激というか、ユーザーが何をしたら楽しめるのかっていう定義を、例えばシューターっていうジャンルの中で話すとき、みんなある種の共通認識みたいなものはあるんですか。シューターだけで見た場合に。素人から見るとですけど、「これは Boring」で「これは Boring じゃない」、っていう定義が、みんなでブレちゃってたらダメじゃないですか。
  • IDA-10 そうですね。そこで必要になるのが、クリエイティブディレクターだったり、ゲームディレクターだったりするんです。
  • LYE ああーそうか! そうですね。
  • IDA-10 僕がやってるのはそれです。ビジョンホルダーとか呼ばれたりもします。
  • LYE ビジョンホルダー。
  • IDA-10 それはだから、自分でやっててなんですけど、すごく大事なことで。別の言い方をすると、最近のゲームは「何がクールなのか」からスタートしてることが多いんですね。なので、今作ってるゲームだと、「これがクールなんだ」「これで世界を驚かす」って。僕はチームを盛り上げるときによく「これで世界を驚かす」を使うんですけど。たとえ 3 点、4 点のゲームでも、ここの部分だけは世界一だぞっていう、そういうこと言っていかないとみんな盛り上がらないので。レビュースコアで100点とるぞとか何100万本売れるぞとか言ってみても、みんな現実知ってるんで。この予算でこの期間だったらこんなもんだろってすごく冷酷なデータがあるし。ただ、この部分だけは絶対負けない、この部分だけは絶対世界一になるぞっていう風に言えるとまた違うんですよね。
  • LYE それは先程の「眼に見えないところを大事にしていく」ってところと繋がってくるんですかね。
  • IDA-10 そうですね。みんなが共有できるイメージにしていくと。それでみんながオオーッ! って。みんなガイジンなんで派手にびっくりして、これは絶対クールだわ!すごいわ!って大盛り上がってくれて。やろうぜやろうぜ!ってなるんですよね。そしたらすぐにコンセプトアーティストに頼んでかっこいい絵を描いてもらう。クールを具現してもらうんです。そこがぶれちゃうとゲームが作れないから。日本の古式ゆかしいゲーム制作って言うのは何が新しいか、ゲームデザインとして、何が発明っぽいかという意識がすごく働いていて、そこが一番重要視されていたんですよね、ちょっとニッチになっちゃいますが、わかりやすいところだと塊魂とか海腹川背とか、コアなゲームメカニックが、発明みたいなメカニックが一個あって、ゲームシステムや設定はそれを高めるために用意するという。(こっちだと) そうではなくって、どれだけクールを味わえるか、そこを突き詰めて行ってリソースをぶち込む。 たとえば 世界で数百万本売れた超有名「映画みたいなゲーム2」 を開発中のグレーボックスで遊ばせてもらったことがあるんですけど、何にもおもしろくないです (笑)。笑えるくらい面白くないですよ。でも、絵がついて音がついて音楽がつくと、すごく盛り上がって、めちゃめちゃ面白く感じるんです。で、そんなふうにグレーボックスではつまらなくても、コンセプトアートを見て、ストーリーボードを見てるから完成型をみんなで共有できるんです。そのために、そういうゲームを作るために、コンセプトアートとストーリーボードが重要なんです。
  • LYE ものすごく乱暴に言うと、アメリカの会社では映画を作ろうとしてて、日本の会社は芸術作品、というか自分が生み出した何かを見てもらいたいという風に…いやちがう、うまく言えないな…その、視点を置く場所が違うというか…あるんですかね。
  • IDA-10 何かが違うのは確かですね。映画って言うよりも、やっぱり体験なのかなとは思いますが。
  • LYE あ、体験、なるほど、そうですね。
  • IDA-10 コアとなるゲームメカニックにこだわるんじゃなくて、このシチュエーションではこう大暴れして、こっちではスリラーをやって、っていう作り方なんですよね、一個ずつ使い捨てにするというか。レベルごとにスペシャルな体験が提供できるならあんまり気にしない。日本にいたころは一番疎まれたやり方です。一回しか使わないプログラムなんてありえない、使い回せば使い回すほど美しいといわれる。でも、別の作り方を経験した今振り返ると、ただ使い回すために汲々としすぎてしまっていたなと感じます。僕がよく見た光景って、コストを下げるためだけに一生懸命プログラムを使い回そうとしてた。これって、面白くするためにひとつのゲームメカニックに色んな使い道を与えてたら、自然とコードを使いまわすことになるってのが本当だと思います。宮本茂さんが言っていた、「ひとつの仕掛けを作ったら、最低 3 回は使え」という教えがあるんですけど、宮本さんが言っているのは、3 回違う使い方をしろっていう事だと思うんですよ。それは「あ、これこんな使い方があるんだ」ってプレイヤーが気づいて盛り上がる、とても正しいことだと思います。
  • LYE …これ (この記事) は多分、すごくはてブがつく予感がしますよ (笑)
  • IDA-10 (笑)
  • LYE あ、そうだ、僕からも質問がありまして、さっき思い浮かんだんですけども。ちょっと文化にも関係するんですが、具体的なことで。ゲームの中で、車が出てくるじゃないですか。シューターとかでも、Gears Of War のとか --僕あの面大嫌いなんですけども (笑)-- あとは Borderlands にも出てくるし、とにかく Halo でも何でも「車に乗せよう」とするじゃないですか。僕の中では、(車にのることについて) 国民全体に訴えるクールネスの定義みたいなものがみんなの中にあって、だから車に乗るのかなとか思うんですけども。
  • IDA-10 確かに。なんでかな、生活に結びついている紐づいてるというか。日本でも田舎だとそうですけど、カリフォルニアだと車なしには生活できないんで。だから、「何で車に乗れないの?」っていう。まず何かに乗せようとするというか。今作ってるゲームにいらないじゃん!っていうのを説得するのにすごく大変だったり (笑)。
  • LYE (笑) もうほとんど、なんで朝ごはん食べないの? みたいな勢いで (笑)
  • IDA-10 そうそう、なんでジャンプできないの? ぐらい。まあ極端に (環境と車の雰囲気が) 違えば納得すると思うんですけど (笑)。いかにも車が出てきそうなところで車が出てこないと、ぼくはちょっと説得できる自信がないです…
  • LYE なるほど。ユーザー的にも、作る側にしても、「車は出てくるだろう」というのがあるんですね。
  • IDA-10 だって僕は X 社でずっと XXXX (某看板タイトル、車要らない感じ) を作ってたんですけど、アメリカで作った続編の XXXX では、そのキャラが車に乗ることになったんですよ。すごいな、と思って。
  • LYE (大笑)
  • IDA-10 もうマーケティングからPRからも車を出せ、車に乗れと。でも、コアメンバーはほとんど日本人でみんな作りたくないから、嫌うんですよね。車を作るってことは別のゲームをもう一個作るようなもんだから、っていうのが僕らの基本的な考え方だったので。違う操作系を (ユーザーに) 与えるってことは、違うレベルデザインをしなきゃいけないし、敵の AI も違うように反応させなきゃいけないし、丸々違うゲームをもう一個作るようなもんだっていう感覚なんですよ。だから車を作るなんてみんな全然乗り気じゃなかったんですけど、結局ゴリ押しされて作ってしまったという…(笑)。すごいな、と。特にね、プロデューサーとかディレクターとかガンコな人が多いのに (笑)。まあ僕が担当した面ではなかったんで他人事でしたけどね。
  • LYE なんだか長年の疑問がちょっと解けたような気がします。
  • IDA-10 あと、もう一個単純に、箱庭系ゲームだと広大で移動がタルいから、デザインとして (徒歩より) 速いものが必要っていうのもありますよね。FF の飛行艇みたいな感じ。タルいの嫌うんで、とにかく。一刻も早くそこにたどり着ける手段を用意しなければいけないというか。Borderlands とかは完全にそうですよね。
  • LYE そうですね、アレ全部歩けって言われたらタルくてやってられないかもしれない。
  • IDA-10 でもそうじゃなくても、シューターとかでも絶対体験として入れてきますね、たしかに。GoW とか Halo とか CoD とか。やっぱり身近な移動手段のひとつだからって言うのがあるとおもうんですけど。あ、でも、その割には日本で自転車のゲームってないですよね。「プロップサイクル」くらい?
  • LYE 無いですよね。電車シミュレーターは一時ありましたけど。
  • LYE 自転車はまだ無いですねー。豊島区あたりで作らなきゃいけないと思うんですけど (メモ: 豊島区は自転車の数が日本一のはず)。
  • LYE では最後にもう一つ質問を。かなり真面目な質問なんですけれども、@minahito さんから「『日本は、(繁忙期にチームを巨大化できる米国を模して)協力/専門職会社、ライバルメーカーなどとの協働体制を極めるべき? それとも「暇な時期のランニングコストを下げられるよう(国内法の許す範囲内で)米国的な雇用体制の一般化を目指すべき?」についてお願いします。
  • LYE とても枠が大きな内容なので、もちろん個人的意見ということでお願いできればと思います。
  • IDA-10 <しばし沈黙> ええ〜、日本…は日本で良かったと思ったところもあるしアメリカはアメリカでいいところもあると思うんですけれど…。日本で人が切られないで、全員で次に突入するっていうのは、がんがんゲーム作るんじゃなくて、研究開発ができるってことでもあります。結果的にですけど例えばアーティスト余ってますよね最初は。そこでアーティストがひとりプログラマ借りてシェーダー開発するとか、あとは新しいアニメーションブレンドの使い方を研究するとか、そういう研究って、ゲーム開発が本格化したらできないんですよね。そういうのは習熟する環境が絶対に必要なんです。日本でもし人がいっぱいいたら自然とその時間に充てられる。プログラマもプロジェクト中は余計なことできないけど、俺これが試してみたかった!っていうものを試してみたりとか。
  • LYE 逆にアメリカで今働いていると、その辺が手薄だなと感じるところもあるということですか?
  • IDA-10 ありますね…あり、ますね。もう…やっぱ全員が結果を出さなきゃいけないという強迫観念があるんで。結果を現場で出さないと、自分の身が危ういっていう。なかなかじっくり腰をすえて研究できるっていう状態ではないですね。会社によるとも思いますけどね。例えばファーストパーティの Naughty Dog みたいに絶対に大丈夫っていうスポンサーがいる会社だったら、次作るゲームに向けて研究開発もできると思いますけど、普通のデベロッパーだと、そういう時間を持てない会社っていうのは山ほどある。だからクローンが生まれやすい。一回ヒットが生まれれば、一回ノウハウができたら、それをひたすら使う以外できないという。日本は…僕は X 社だったんであまり小さい会社のことを知らないですが、X 社に関してはそう (前述のような環境) だったんで。日本でも小さいソフトハウスだと、研究開発できないところはいっぱいあるとは思いますけど。
  • IDA-10 アメリカはだから、調整はしやすいですが…まあ会社としてみればいいことでも、現場レベルで言うと「試したかったことがあの人いなくなって試せなくなった」こととかあって、一概に良いとは言えないです。経営的な観点からすると僕は専門外なので言えないですけど、確かにコスト下げられるんでいいかもしれないですけど。それもアレですね、良い人がウロウロしているっていうのもあるかもしれないですね。逆に人の流動性が高いから、優秀な人はすごく良くして、引き留めようとする。<アメリカの某社> などは、会社レベルでそういう理解があって、「うちの会社はこんなにいいよ」とかすごくアピールしてくる。月に1回はタダで映画観に行けますよ!とか、毎週金曜日は朝にベーグルとドーナツ出すよ!とか。実は日本の会社のほうがよっぽど福利厚生が厚かったんですけど、会社から恩着せがましく「うわー、俺たちこんなに良くしてる!お前にこんなにベネフィット与えてる!」ってアピールを感じたことはなかったです。
  • LYE ちょっと関連するかもしれないんですけれど、よくクオリティオブライフ (QoL) がどうのとか、ゲーム業界で働く人の QoL を向上させようとかって色んなところで言われると思うんですけど、その辺の意識の違いって、日本で働いていた時と、米国で働いているときとだいぶ違いますか? さっきの家族第一というのも結構大きなことだと思うんですけども。
  • IDA-10 根本的に違うのは、会社員として働きつつも、本当の意味で家族第一にしていい安心感です。産休が普通に使えるとか、そういうのが人々の心に染み込んでる感じで。家族大事にしろよ、ってことあるごとに声をかけられるとか、長時間働いてると人事部の人がガードマン呼んで無理やり帰らせるとか。たいてい日本じゃ聞いた事ないなあと。僕が入るちょっと前にあったらしいんですけど、本当に強制的に帰らされた人がいたとかって。やっぱりそれ (家族第一) を会社をあげて保証して、社員もそれを普通に考えてるのが大きな違いです。
  • LYE 企業文化の違いと片付けてしまわずに、じゃあ日本は何をしていけばいいのかっていうのはこれから考えていかなきゃいけないことかもしれないですね。僕が考えることじゃないかもしれないですけど。
  • IDA-10 それも結局雇用形態が大きく関わっていると思うんですけど、日本はあんま辞めないのが前提だったのかなーって。でもどんどん変わっていると思うんで。
  • LYE こないだちょっと、流動性はかなり高くなっているという話は聞いたんですけれども。
  • IDA-10 でも、僕から見て根本的な違いがあって、それはこっちのゲーム製作者は平均年齢が高いってところです。
  • LYE あ、高いんですか。
  • IDA-10 それはなぜかと言うと、継続できるからです。僕は (日本にいるときは、) これ続けられないなって考えてたんですよ。クランチがくるたびに何日も家に帰れなくなって、っていうのが当たり前だったんで。僕の性格的に、絶対自分の担当部分をないがしろにできないな、自分に任されたレベルがあって、それやりかけのまま帰れないなと。レベルデザイナーとかだと、いくらでも時間をかけられるわけですよ。面白くするために。敵の出現タイミングの調整なんて、それだけでも1週間やりつづけたいくらいです。でもアメリカに来てみんなの優先順位の一番上が家族になってると、僕も自然とそうなってきて……。
  • LYE だからこそ、ちょっと歳取ってからやめちゃったりしないで続いているのかもしれないってことですかね。
  • LYE 何かアレですね、IDA-10 さんという人が、収まる場所というか、そのままの形でいられる場所が日本ではなくアメリカだった、という事なのかもしれないですね。
  • IDA-10 かもしれないですね。やりたい仕事だけじゃなくて家族とも一緒にいたい、と考えると。多分僕がひとりだったらどうとでもできるでしょうけど、2 人目の子 (日本にいる頃) が生まれた時も休みがあんまり取れなくて結果的に奥さんがひとりで二人の子供抱えてやんなきゃいけなかったから。このままじゃいらんないなと、そういうことが起きる度に。まあでも、これってゲーム業界に限らないと思うんですけどね。
  • LYE じゃあどうするのか? については偉い人に考えてもらわなきゃいけないのかもしれないですけれども。何か今、知り合いの顔が何人か浮かんで、あの人達 10 年後も楽しく仕事ができてるかなとかちょっと考えちゃったんで。
  • IDA-10 それは多分、上からいわれるんじゃなくて一人ひとりがそうなっていかないと厳しいんじゃないかって気はします。
  • LYE さっきの車の件と一緒で、(空気というか文化が) 最初からあるものとして自然に存在してるんですよね。
  • IDA-10 そうですね。こっちだといい年したおっさんがママ! ママ! とかってハグしてるじゃないですか。日本ではあんまないですけど。会ったらハグして、キスして、喜んでっていう。表現の違いだけかもしれないですけど、家族を大事にしてるってのがすごく伝わってくるんですよね。
  • IDA-10 すみません、雇用形態の話からはだいぶ離れてしまいましたが。現場レベルとしては、人はいたほうがいいということですかね。
  • LYE 中長期的なお話は聞けたのできっと大丈夫だと思います!
  • IDA-10 企業として考えれば開発費をシュリンクできるというのはその分だけ、特にクオリティを上げるたい部分にリソースをつぎ込めるってことなんで、すごくいいことだとは思います。限られたリソースでクオリティを上げるには、いらない期間にスタッフは雇わないっていうのは、たしかに自然ですし、やむを得ないと思います。でも、やっぱりゲームの面白さって理屈じゃない部分からくることが多いので、リソースに余裕が持てるなら、ずっといて研究開発してもらったほうがいいのかなあと思います。その基礎研究から偶然生まれてくるヘンな要素がゲーム全体を救うことって普通にある気がしますし。
  • LYE あとはその、日本のクビ切りの難しさみたいなものと、メンタリティというか、(退職した後に) じゃあまた新しいところを探そうという気持ちに「どういう風になっていくか」が日米で違うところとかが絡んできて難しそうですが。
  • IDA-10 そうですね、色んな問題が絡んでて明確な回答ができなくて申し訳ないです。
最後に
  • IDA-10 なんか、全然英語の話しないで申し訳なかったですけど、やっぱり海外で働くのなら一番の近道はあれ (駐在員) だったのかなと思いますね。駐在員だと保護も厚いし、福利厚生も厚いし、サポートもしっかりしてるんで、ルートさえあるんだったら、そのルートにアクセス出来るんだったら、駐在員として来るのが一番よいファーストステップだと思います。特に、家族がいるなら。生活の心配とか大きいかったですけど、駐在員だから安心できたってのは大きかったです。家族手当が出て、ビザのサポートがあって、各種書類やソーシャルセキュリティナンバーとか、色んなことにサポートがあったんで。それでアメリカの生活に慣れられたというのはありました。
  • LYE なるほどー。長い時間ありがとうございました。やっぱり根っことして、コミュニケーションというものの捉え方次第だぜっていうのを実例を交えて聞けたので、僕が最初に挙げた無理やりのテーマもカバーしてもらって、ゲーム業界についても話してもらって、個人的に超楽しかったッス。
  • LYE またネタがあったらやりませんか (笑)。
  • IDA-10 ええ、ええ。なかなかこういう風に話す機会もないので。インターネットすごいな、と。
  • LYE ホント凄いっすよね。
  • IDA-10 こうやって自分の考えてることについてまとまった話をすることはめったに無いんで、新鮮で楽しかったです。
  • LYE 良かったです。次はなんか Skype あたりでやれるといいなと。ありがとうございました!

インタビュアーより

  • 最初に自分が音声からテキスト起こしたときにIDA-10さん色がぬけちゃったなあと心配していたのですが、IDA-10さんに直していただいたらIDA-10さん色にしっかり仕上がっていてやっぱりこの人の表現力はすごいなーと改めて思いました。
  • 2 時間お話ししてみて、「言語なんてのは目標を達成するためのツールのひとつである」ということを最初から体で知っている方なのだな、という印象を強く受けました。(ゲーム業界でアツく働く人に共通する) 激しい熱意やスマートさが言葉の端々から溢れていました。
  • 「生き物としてゲームが育っていく上で、コラボレーションだとかケミストリーみたいなものをうまく引き起こしていく」ことに最大の喜びを見出しているというところがとても素敵だなあと。
  • これからも、家族を大事に素敵なビッグダディでい続けてください。