シャドーイングと音読の科学:感想

シャドーイングと音読の科学

シャドーイングと音読の科学

すばらしい本でした。
本当はこういうトピックがあって、こんなことが書いてありますよ!とまとめる予定でしたが、全部大事だったのでまとめようがありませんでした。ただ、途中で学習者向けではなく教育者向けの節があるので、そのへんは適当に飛ばせばいいと思います。

この本をオススメする人:

  • 初級〜中級の英語独習者
  • 他者から与えられたトレーニングメニューをこなすだけだと、そのプロセスの妥当性に疑問を抱いてしまう人
  • 自分が納得した上でトレーニングメニューを組み立て、各トレーニングの意図を十分に理解した上で学習を進めたい人
  • 自分で教材を選んで (好きなアニメの海外版など) 学習したいが、効果的なトレーニングメニューの組み方が分からない人
  • "英語でものを考えるための本" を読んだけどいまいち納得がいかず学習のモチベーションが下がってしまった経験のある人
  • 人に英語を教える立場の人

オススメしない人:

  • 読み聞きについて特に集中しなくてもすらすら対応できる人 (このレベルの人には大幅な成長は見込めないそうです)

図書館にあります

東京都立図書館には少なくとも 1 冊蔵書があります (LYE が借りたので間違いないです)。最寄の図書館で取り寄せればすぐに届くと思います。
まずは読んでみて、それから購入するか検討してもよいかもしれませんね。

すごく大雑把な章解説

  • 1 章: シャドーイングという手法が言語習得に有用であるのは、脳のしくみがこうなっているからですよ、という概要を示す
  • 2 〜 4 章: 1 章の説明を実際の研究成果を引用しながら説明しましょう
  • 5 章: 教育の現場でどうしたらいいかを考えてみよう

という感じになっており、肝になるのは「音や文字として入ってきた情報を、脳内メモリやCPUをもりもり占有することなく(=認知負荷を高めることなく)対応できるようにすることで、それ以降のプロセスで脳内リソースを有効に使えるようにしよう」という点です。

LYE の感想

これを読み終えれば、少なくとも学習中に "こんなこと意味あるのかな" という疑問が頭のなかぐるぐるして結局学習をやめてしまう確率が下がると思います。
読了した時点で LYE は格闘技と比較して下のような比喩が浮かびました(すげー乱暴ですが)

学習法 LYE の比喩 LYE の考える意図
ディクテーション 流々舞 *1 単語、フレーズのひとつひとつをその意図を見極めながらしっかりと身につけていくという意味で。身体的反応の自動化やスピードへの対応でなく、あくまでも "ゆっくりと、体に実践的知識をしみこませること"を主題としている。
シャドーイング 柔道の連続乱取り稽古 体に蓄積した技、タイミング、体の動きなどの技能をリアルタイムに活かして、"身体的反応の自動化" と "実戦スピードへの対応能力を向上させる" ことを主題としている。知っていることを体が勝手にやってくれるようにトレーニングすること
単語学習 筋トレ なければ何にも対応できず、成長も見込めない要素。ただ闇雲に筋肉だけをつけても、その使い方を知らなければ意味がないけれど。
文法学習 運動の科学的知識の学習 筋肉の使い方としくみを理解すること。"実践で上手くいかないときに何故上手くいかないのかを理解する"上で必須となる。

筋力のある人が運動の科学的知識をある程度備えた上で試合の脳内シミュレーションをしっかり終えてから乱取りをすれば、奥襟を取られないためにどう動けばいいのかとか、寝技のかわし方とかが「考えなくてもできる」状態にする良い練習になると思うのですが (LYE の柔道知識は『帯をギュッとね』のみ)、そういう稽古で一番フィジカルな部分(英語ならば音を聞いてそれを認識する動き)を自動化すると、それまでは一杯一杯で考えられなかった「戦略」だとか「相手の意図を読む」ことのために脳内リソースを割けるようになる、と。そういうことだと思います。

「英語でものを考える」とか言われるとなんだか脳内ログインユーザーとか言語ロケールをを切り替えないといけないような気がしてしまいますが、実際には「今まで手動で対応していた処理を自動化して、本来の業務に集中できるようにする」みたいな、企業 CMS の売り文句みたいなことだと思うのです。
この本を読んでしっかり納得した結果、言語習得の概念をそういう風に捉えられると、学習モチベーションも保ちやすく、楽しく英語学習を続けられると思います。

*1:Hunter x Hunter 15 巻 47 P、GI でゴンとキルアがゆっくり "流" の練習するトコ