日→英のファン翻訳者とプロ翻訳者をかけもちでやってる人のインタビュー
原典: http://www.gamasutra.com/view/feature/3891/you_say_tomato_a_pro_on_.php
翻訳は LYE が勝手に行ったもので、記事の著作権はもちろん Gamasutra に帰属します。
また、読みやすくするため (文体を練る時間がもったいなかったのもある) 、Tomatoさんのコメントは箇条書きにしました。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
Clyde Mandelin 氏は日英翻訳者だ。本業では『キングダムハーツ2』や『Tim Burton's The Nightmare Before Christmas』などのゲームのほか、『ドラゴンボール』、『ワンピース』、『ルパンIII世』などのアニメ翻訳にも携わっている。
一方でそれと同じくらい知られているのが、彼が余暇に無償でやっている、マイナーなタイトルの翻訳実績だ。つまり彼は、日本以外で日の目を見ることが無かった8ビットとか16ビットゲームの「ファン翻訳者グループ」のメンバーなのだ。「ファン翻訳」されたゲームは、インターネットにパッチとしてリリースされる。このパッチをエミュレータに入れると、欧米ゲーマーも「禁断の果実」が愉しめる、というわけだ。このアンダーグラウンドの世界で、彼は「moniker」、「Tomato」として知られ、またスクウェアエニックスタイトル、『バハムートラグーン』や『スターオーシャン』、最近のものでは『GBA版Earthbound』『Mother3』を翻訳してきたことでも広く知られている。
特に2008年秋に公開された『Mother 3』は大きな注目を集め、リリース1週間で10万件以上もダウンロードされた。
-
- 自分達がやっていることが法的に見て100% OKだとは考えていないが、できるだけ問題にならないような活動をするよう努めている
- 過去にはファン翻訳を公開した開発元の会社から感謝のメールや、一杯おごるよメールなどが届いたこともある
- だから、基本的に僕らの仕事は非公式ながら感謝されていると考えている
-
- 『Mother 3』は嬉しいオドロキだった。予想していたよりも圧倒的だった
- プロジェクトのメンバーもみんなポジティブで最高だった
- 最初は合計で数千ダウンロードくらいかなと思っていたのに、リリース後にはあっという間に10万件を超えた
- ミラーサイトのカウントまで入れたら多分その倍くらいいいってると思う
- ダウンロード件数を見て、みんなで「おおっ、インターネットを通じてこんなにたくさんの人をシアワセにできるなんて!」ってうれしがった
氏は20代を著名なゲームローカライゼーションエージェンシーの FUNimation and Babel Media 社で過ごした。幼少の頃はハワイに住んでおり、アジア言語や文化に興味を持ったのは多分そのときの体験が元だと思う、と彼は語る。
Atari 400時代からのゲーマーで、『Earthbound』や『クロノトリガー』などの日本産のSFCゲームをプレイするうちに、自分でもゲームを作ってみたいと思うようになった。ただ実際に行動に出たのは、大学卒業後、自分が本当にやりたいことをする! と決意したときだった。
-
- 当時は卒業後に何をするか、自分の進みたい道がまったく見えなかった
- 専攻を変えてみたけど特に代わり映えもしなかった
- だからローンを組んで、日本で一年勉強してみよう、って決めた。ギャンブルにしてはちょっと掛け金が高かったけど
-
- 日本にいる間に、ROMハッカーがスクリプトの翻訳をしてくれる人を探しているって聞いて、引き受けた
- それが初めてのファン翻訳だったんだけど、一発で分かったんだ、僕の仕事はこれだって
- それからはスキル磨きにいそしんだ。自分のやりたいことが見つかると、こんなにいい気分なんだ」ってことが、あの時やっと分かった
それ以降 Mandelin 氏はROMハッキングの世界にのめりこんでいき、それとともに機運と知名度も上がってきた。しかも当時は『Final Fantasy VII』が世界中で大ヒットしたことで一気に JRPG ファンが増えた頃だった。だがその人気にもかかわらず英語版タイトルが乏しかったため、多くのファンはスクウェアエニックスの旧作ラインナップを遊びたい!と切望していた。
ROM ハッキングがメジャーになる前は、英語圏のプレイヤーがファン翻訳タイトルを遊ぶには、対訳表をプリントアウトして、それを見ながら遊ぶしかなかった。エミュレーションの登場は、ファン翻訳のスタイルを大きく変革したのだ。
その後すぐに、ハッカーと翻訳者で構成される小さなコミュニティが生した。ROMからテキストを抜き出し(ハッカー担当)、英語に置き換える (翻訳者担当) ためだ。
-
- ROM 翻訳には大きく分けて"ハッキング"と"翻訳"の2つのステージがある。これはSFCでも他のシステムでも同じ。
- 最初にハッカーがゲームで使われてるフォントを探して「テーブル」と呼ばれるものを作る。ハッカーチームはコレを使ってテキストデータの場所を特定していく。
- テキストが全部見つかって揃ったら、ハッカーチームが日本語テキストをファイルにダンプして、翻訳者はそれを翻訳する。
- 翻訳に使うのはメモ帳とかだけど、大きなプロジェクトになるとハッカーチームが翻訳支援用のカスタムツールを作ってくれることもある。
-
- 翻訳終了後も、編集の上手い人がテキストを練ってくれる場合もある
- その後ハッカーチームがフォントをチェックして、アルファベットが含まれていない場合はアルファベットを追加する
- フォント処理が完了したら翻訳済みテキストをゲームに戻して終了
- こうして概要を聞くよりも実際の作業はもっと大変だし、プロセスがゲームによって違うし、また担当者によっても違う
ROM ハッキングはエミュレーションと同じく、法的にはグレーだ。厳密に言えば、「第三者が企業の知的財産を改ざん」していることに他ならない。ただ、こういったコミュニティにおいても倫理フレームワークは維持されている。
-
- 第一に ROM 翻訳は趣味だ。これでお金を得ているわけではないし、ゲームの開発会社に損害を与える意志もない
- 例えば、ROMハッキング/翻訳のセントラルハブとして機能しているromhacking.netでは、絶対に最近のゲームをポストしたりしない
- また、『Mother 3』のときもそうだったけれど、ゲームの知的財産権を持つところからひと言でも届いたらみんな中止する準備ができていた
- 一般的に言って、まともなファン翻訳者は全員「自分が何をしているのか」を理解したうえで活動している
- 彼らが翻訳をするのはそのゲームに対する愛のためだけ
- ゲームの開発会社 (少なくとも法務部門) はそれを分かっているし、その相互理解があるからこそ誰も停止命令書を受け取ったりしていない
おそらくそれは趣味で活動しているファン翻訳者としてはそうなのだろう。ただ、その後プロの翻訳者になったとき、こういった「影のある」活動実績はマイナスになるのではないか。
-
- 自分の「非公式な」実績が仕事上の障害になったことはないと思う
- そういった非公式な翻訳活動は「自分がやりたいことでメシを食う」ためのステップになった
- 実際、ファン翻訳活動で培った知識やスキルはプロになってから確実に役立っている
- 過去の活動で身に着けた小技は、今の自分を形成する大切な資産だ (例えば字幕のタイミングだとか、特定のソフトウェアに習熟していることとか)
- 自分にとって、公式非公式両方のフィールドで翻訳に携わるのはとてもおもしろい
- 「公式の翻訳よりファン翻訳のほうが優れてる!」なんていわれることも多い
- でも、僕の知っているプロの翻訳者は全員 (現/元) ファン翻訳者だ
- 物流などの点を別にすれば、ファン翻訳とプロ翻訳の間にほとんど違いなどない
- 最大の違いは、プロ翻訳者には納期があることだろう。時には本当に厳しいスケジュールで仕事をしなければならない
- 過去に、Wiiのゲームを丸ごと翻訳するのに 2 日しかもらえなかったこともある。そんな風では品質に影響が出てもおかしくない
- またプロは一度世に出てしまった製品に手を加えることが許されない。打ち間違え (納期がきついから起きてしまうこともある) やミスはずっとそのままでゲーマーの目にさらされることになる
- でもファン翻訳者は、いつでも改定して新しいバージョンを公開できる
- またプロの場合、絶対にお客さんがいる。これは必ずしも悪いことじゃなくて、製品に名前が載ったり、(もし物凄く幸運なら) 担当しているタイトルのクリエーターに連絡して確認をお願いしたりできることもある
- 一方ファン翻訳では好きなように翻訳ができる。この自由さが時にいろんなストレスを軽減させてくれる
- 例えば名前の公式リストが支給されたけど明らかな間違いがある場合 (これはけっこうよくある)、修正するにはうんざりするほどお役所仕事をこなさないとならないし、結局直せないことだってある
- ファン翻訳者なら間違いを勝手に正せばそれで OK だ
彼がROM翻訳の世界に足を踏み入れたとき、そこには翻訳されるのを待つ宝石たち (名作 SFC ソフト) があった。それから 10 年が経ち、名作と呼ばれるタイトルはほとんど公開されてしまっている。彼には次の道が見えているのだろうか?
-
- 欧米でも有名なファミコンと SFC タイトルはあらかた (公式/非公式に) 翻訳された。だからシーンは今、徐々に Playstation 、GBA、それから Playstation 2 に移行しつつある。翻訳を待っている名作はたくさんあるから
- DS ゲームはいじるのが少しらくだからそれもいいと思う。埋もれてる作品は一杯ある。今のところは、そんな感じ
そんなにたくさん翻訳していたら、自分が日本ゲームの英語版を遊ぶときに楽しめないなんてことがあるのでは?
-
- 確かに翻訳モノのゲームをプレイしたりアニメを見る時にも、常にうまい表現がないか、って探して、自分のスキルアップにつなげようとしている
- ある種の日本語フレーズに対して美しい翻訳が当たってるのを見つけるとノートにメモったりもする
- 翻訳を見ながら、オリジナルの日本語はどんな風だったんだろうって想像することもよくある。それ自体が楽しい「言語ゲーム」だから
- ただ自分が日本語版を遊んだ場合を除いて、翻訳が良いとか悪いとか評価することはできないかな
今聞いたことを踏まえて、彼のプロとして、またアマとしての活動に影響を与えた「ヒーロー」について聞いてみた。
-
- Alexander O. Smith 氏の翻訳の大ファン (『Final Fantasy XII』などスクエニのタイトルを多数担当)
- いつか彼のようなレベルにまで達したい。その日が来るまで、僕の中で『ベイグラントストーリー』の翻訳の見事さは輝き続けるだろう
- もちろん Nintendo Treehouse のスキルの高さも尊敬している。彼らが美しいテキストを作り上げていくさまは圧巻としか言いようがない
- 彼らの翻訳は、もともと日本語で作られたゲームだってプレイヤーが気付かないレベルだから
- 個人的に『ディスガイア』シリーズが好き。あとはこまごまとしたアトラスのローカライズタイトルも好き。
- Ted Woolsey 氏 (SFC 時代のスクエニの翻訳者) は絶対外せない。彼がゲーム翻訳に求められる水準をぐっと上げてくれたことは間違いないから
- 最近は彼を批判する人も多いけど、『Final Fantasy II 』よりも『Final Fantasy III』のほうが圧倒的にテキストが自然だった。僕は当時、本当に驚いたんだ